第8話 女神の宝珠

 目の前に現れた白髪で正装を来た少女、騒がしい声で僕たちにいきなり指摘を入れてきた。


「いや、いきなり現れてなんなんだあんた」


「私は聖女エテラカネルカ! 聖堂の管理者だぞ」


「聖女様ってことは、あなたが今回の依頼人か」


「依頼人?ああ貴様もしかして冒険者のグラスって奴か」




「えーとエテルカネルカさん? 急用があったんじゃなかったのか」


「私の事はエルカと呼んで欲しい、急用は既にすましてきたぞ。ほらそこを見てみ」


 ふむふむ、見たところ大量のお供え物が置いてあるが……。


「これ全部エルカが持ってきたのか」


「そうなんだよ、参拝者さん達が急に来れないっていうから、代わりにたくさんの贈り物を持ってきてくれたのだ。ちょっと荷物の手筈を取るのに戸惑ってね」


 成程、だから聖堂にも安置場にも参拝者の姿がなかったのか。


「参拝者さん達はなんで来れなくなったんだ?」


「それこそ、グラスに密接にかかわるあの件が原因なのだよ」


「聖堂に現れた闇って奴か!」





ふむふむ大体事情が掴めてきたぞ、エルカはあれからさらに詳しいトーラス聖堂の事情を話してくれた。


  そもそも闇が聖堂に出現した原因としては女神像を盗み出そうとしたものが現れたことが原因だそうだ。その者は以降行方不明になったという。


  代わりに聖堂に出現するようになった闇、参拝者達は女神の怒りだと恐れるようになり参拝を控えるようになったそうだ。


「女神像を盗もうとね。とんだもの好きがいたものだな」


「もの好きじゃと、貴様あの女神像には伝説の女神ホルテラが宿っているのを知らんのか」


「知らないけど、レピティはどうなんだ」


「はい、伝説の女神ホルテラ……かつて魔王を倒した勇者セルファシアに力を貸したとされる伝説の存在として有名です。彼女のお陰で勇者セルファシアが魔王を倒すことが出来たと言われるほど、その功績は計り知れません」


 とてつもなく壮大な話が出てきたな、魔王とか勇者とかいまいちピンとこないぞ。本当に魔術の分析ばかりしていた僕はこういった知識に疎い。


「まあとにかく世界を救った凄い女神様ってことか」


「今更知ったのかお前は、そんなわけで普通盗もうとは考えないが、誰もが手に入れたいとは一度は思う、それこそこの女神像なのだ。これを機にホルテラ様への敬いの心を高めておくんだな」


「いやそこまではしないけど、まあお祈りを雑に行ったのは申し訳ないとは思うよ。次から気を付ける」


「ふむふむ、多少はマシな心がけになったようだな」


「ところで、まだまだ時間があるようだけど、お前達はこれからどうするんだ」


「そうだなあ、考えてなかった、エルカは何かおすすめの名所とか知らないか」


「ふふふ、それなら、聖水でも浴びてみるか?」


 何かを企むように微笑んだエルカ、その瞳の奥にはよからぬ思惑が隠されているに違いないと僕は悟った。




 ここはトーラス聖堂の地下一階の《聖水の場》、エルカに面白い体験が出来るからとこの場所を案内されたため、僕達は訪れてみることにしたのだが……。


「どわあああああああ!」


「ご、ご主人様ああああああ! 大丈夫ですか」


「も、もう駄目だ」


「やわすぎるなグラスとやら、その程度でよく冒険者を名乗れる」


「やっぱり、もう一回やらせてくれ」


 エルカの勝ち誇った顔に腹が立った僕は眼鏡を整えながら、もう一度聖水の中に入っていく。聖水の場、その正体は激しい滝打ちの場なのであった。


「どわあああああああああ」


 やっぱり駄目だったか。




 それからトーラス聖堂の応接間に移動した僕達、しかしまだ身体に滝打ちのダメージが残っているのが分かる。


「ハックション! クソッとんでもない目にあったぜ」


「まあまあこれもエルカさん曰くお清めの一環ですので」


「レピティもやったらいいのに」


「私は遠慮しておきたいですね」


「ふむふむ、中々の耐えぶりで見直したぞグラス、最初のやわだなと言ったことは取り消してやろう、ほれこれが約束の褒美だ」


 僕が手を差しだすと、エルカは手のひらに乗るサイズの純白に光り輝く丸い球をくれた。


「これは聖水に打たれたものに聖堂の者たちからのプレゼントとして渡している《宝珠》だ、グラスは最後まで耐えきったので一番等級の高いものを用意したぞ」


 何だろ、凄く神秘的なオーラを感じる。


「へえ宝珠か、凄く綺麗だしかなり高いんじゃないかこれ」


「ホルテラ様の祈りの力が宿っているとされている宝珠だからね、金貨10枚にはくだらないとは言える。まあ売るなんてことは絶対私が認めないが」


「いや売らないけどさ…」


 凄い目でエルカがこっちを見てきたのでとっさに誤魔化す僕、売ってしまった日には呪いでもかけられるのではないかと恐怖を感じたのであった。

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