第29話 死まで共に



リーノアさんの手を取って、快速で帰った。


なんとか、霧の手前まで来ることができた。


リーノアさんの手を取って、霧へ進む。


リーノア

「え、え?

魔女のところに行くんですか?」


「そうだよ。

一刻を争うから、早く行こう。」


霧の中を駆けて、魔女の元へ向かった。




魔女

「おかえり。

おや、来客かな?

いやはや、たった一日で女性を連れてくるとは大したモノだな。」


「嫌味のつもりかよ。

今は割とそういう余裕ないんだよ。」


魔女

「そう見えるね。

どうしたんだい?」


「大事なものが見つかるまでは、俺は死なないんだろ。

見つかっちまったんだが、どうしたらいい。」


魔女

「まぁ、運命だからね。

逆らえないのも当然だよ。」


「で、でも─」


魔女

「まあまあ、まずは落ち着きなさい。

何も、大事なものが見つかったら即そうなるわけじゃないから。

いつ来てもおかしくはない状態になるかもしれないけど、ここに居るうちは問題ないから安心しなさい。」


「あ、ああ、そうか。」


魔女

「それより、大事なものが女の子なんて、君もませてるねぇ。」


「う、うるせえよ!」


魔女

「ふふっ。

いいじゃないか、別に。

良い事だよ?」


リーノア

「えーっとぉ、お、お邪魔でしたか?」


魔女

「おっと、すまないね。

私としたことが、少し興奮してしまった。

ほら、ここは安全だから、彼女に全部話しなさい。」


「あ、おう。」


魔女

「私はお邪魔だろうから、散歩でも行ってくるよ。」




リーノア

「えっと、ど、どうしたんですか?」



この話をするのは少し気恥ずかしい。


けど、何より大事だ。



「・・・今からする話は、俺の過去と未来の話だ。

それが、君の今後に大きく関係する。

だから、覚悟して聞いてほしい。」


そうして、俺は全てを語った。

俺がガレンを殺して、どこで何があったかとか、魔人の長と何を話したか、とか。


あとは─


「鍛錬はここでしてるんだ。

魔女に全身に重りをつけてもらって、それで川の中に叩き落される。

そこから、何とかして抜け出すっていう鍛錬だよ。

まぁ、今まで一度も出来た試しがないけどさ。」


リーノア

「出来なかったらどうなるんですか?」


「窒息して放置されるだけだよ。」


リーノア

「窒息⁉

それって溺れてるってことですよね⁉

大丈夫なんですか?」


「あー、もう一か月ぐらい毎日やってるから、死なないことは分かったし、慣れたよ。」



嘘だ。



リーノア

「慣れられるようなものじゃないじゃないですか!」


「ま、まぁそれは置いといて、ね。

問題は、君に会ってしまったってことなんだ。


俺はこの先、また誰かを傷つけることになる。

俺が大事にするもののために。

俺が大事にするものが傷つかないとも限らない。


だから、大事なものを作らないようにしたんだ。

出来るだけ人とも関わらないようにしたし、好きなことも好きでないと思い込ませようとしていた。


でも、俺は君が大切だ。

たった数日の、ただの一お客さんとの関係だったけれど、

そんな出会いだったけど、本当に良い時間だったんだ。


だからこそ、俺は君に、俺のそばにいないで欲しいんだ。

俺といて、迷惑をかけるわけにはいかない。


君には、本当に幸せに生きて欲しい。


・・・・・俺は、この世界の人間じゃない。

俗に言う、『異世界転生』みたいな形でこの世界に来たんだ。」


言うべきか迷ったが、すべて話すことにした。


「この力もその時に手に入ったものだ。

だから、本当の俺は、本当に、大したことない奴なんだ。」


リーノア

「・・・・・・そうだったんですね。

でも、それなら尚更、私は貴方と共に生きたい。


例えそれがいかなる結末を招いたとしても、後悔なんてしません。


・・・・・・貴方と一緒にいたい。


それが私の思いです。」


彼女は、少し赤面しながらそう言った。


「で、でも、俺は本当に─」


リーノア

「大したことない奴、ですか?

そんなことありませんよ。


あの日、あの時、あのお宿に閉じ込められた私を救ってくれたのは、紛れもない、貴方です。


例えそれが偶然だったとしても、貴方は私のヒーローなんです。


異世界とか、力とか、そんなことはどうだって構いません。


何度だって言います。


私は貴方に救われました。

どれだけ、どれだけ嬉しかったことか!

独りぼっちの私の、繰り返されるだけのただの毎日に、

私の10年に、私の生涯に、

その意味をつけてくれたのだから!



そういえば、まだお礼が済んでいませんでしたね。


ご利用、ありがとうございました!

またのご利用をお待ちしてます!


な~んて、ちょ、ちょっと、恥ずかしいんですけどね。」



これは仕方がない。


人殺しだって、泣くときは泣く。



リーノア

「今度は私が、貴方を助けたい。


貴方が苦しんでいるなら、私が手を差し伸べたい。

それが何の役に立たなくても、求めていなくても、

私もその苦しみを味わいたい。

その苦しみを理解したい。」


「・・・・・・・・・・」


リーノア

「貴方の居ない10年より、側にいられる1日の方がよっぽど、、、、良いですよ。本当に。

・・・わかるでしょ?」


「・・・・・・・・・・」


リーノア

「話は以上ですか?」


「・・・・・・・・ああ・・。」


リーノア

「そうですか。


それは、本当に、本当に、良く頑張りましたね。」


「・・・うぐっ、、っ、くっ、ううう、、、、」


情けない泣き方だが、どうもできない。


リーノア

「独りの苦しみは、悲しみは、痛いほどわかります。

でも、私達はもう、独りではありません。


一緒に、この先も、一緒に。」


「うん、、、うん、、、うわぁぁぁ、、、」


涙が止まらない。

こんな情けなく泣くことなんて、過去未来永劫、無いだろう。







魔女

「それそろ良いだろうか。

・・・酷い顔だな。

一体、どれだけ泣けばそんな目になるのやら。」


「う、うるせぇ!」


リーノア

「あっはは!

魔女さんは面白い人ですね!」


魔女

「人かどうかはさておき、褒められて嫌な気はしないね。」


「変人の間違いだろ。」


魔女

「言葉を慎みたまえ少年。

見るに耐えない泣きっ面をまた見せたくは無いだろう?」


「もう勘弁だ。

こんなこともう二度とねーよ。」





この日は、本当に忘れることのない日になった。

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