第24話 鍛錬

「・・・ん、朝か。」


魔女

「おや、お目覚めか。

おはよう。

気分はどうだい?」


「ぼちぼち・・・ってとこかな。

でも思ったよりよく眠れた。

昨日殺人鬼宣告された割にはな。」


魔女

「それは良かった。

今日からお待ちかねの鍛錬が始まるからね。

より良い状態で挑んでもらわないと。」


「そうだな。」


そうだ。

今日から鍛練が始まる。


何のために鍛えるのか。

魔人の長は、俺が守りたいものの為と言った。

鍛えた力で人を殺す、とも言った。


殺すために鍛える

ということ


それだけは、眠っている間も頭にこびりついていた。


魔女

「朝食は何にする?」


「あんまり重いのは嫌だな。

そんなに食えそうな気分じゃないから軽めのものを頼む。」


魔女

「わかった。

用意しておくから、あっちで顔でも洗ってきなさい。」


魔女の目の先には、小さな川があった。

昨日そんなものがあった覚えはない。

が、今はそこにある。


「・・・なぁ、ここに小川なんてあったか?」


魔女

「なかったよ。


一応、この霧の中は私の自由にできるようになっている。

だから何を造るとか、何をどうこうってのは私の自由なんだよ。

この中ならね。」


「あー。

前のティーテーブルもそーゆーことか?」


魔女

「そうだよ。

それより、早く顔を洗ってきなさい。」


「うっす。」


忘れてたけど、ここ異世界だもんな。

よくわからんことが起きても仕方ない。









「さてと、朝食も取ったことだし、」


魔女

「そうだね。

それじゃあ、鍛錬を始めていこうか。」


魔女

「まずは何を鍛えてもらうかだけど、この辺りは魔人の長から聞いているかな?」


「土台、要は基礎だろ。」


魔女

「そう。

まずは基礎だ。

基礎無しで応用はできないからね。」


「具体的には何をするんだ?」


魔女

「筋力と体力の訓練さ。

今から君の体に重りをつける。

全身に満遍なくね。

その状態であの川で泳いでもらう。

後で川は大きくしておくね。

とりあえず、まずは昼食まで。

頑張ってね。

あと、わかってると思うけど、どれだけしんどくても君が死ぬことは無いから、全力で頑張りなさい。」


「お、おう。」


「・・・・・え、うお!」


急に体が動かなくなる。

というか体の内側に向かって押しつぶそうとされてるみたいな感じだ。


「・・・・ち、力が、使えねえ!」


魔女

「え?

当たり前じゃない。

その力に見合う体力と筋力の訓練だよ。

力を使わせるわけないじゃない。」


くっっっそ、これ絶対死ぬぞ。

昼食までっていくら少なく見積もっても2、3時間はある・・・!

これで、3時間耐えろってか・・・?

くっそハードじゃねえかよ!


魔女

「ほら、早く水の中入りなよ。」


「そんなこと言ったって、重すぎ、て、動けねえって!」


魔女

「はぁ~。

ほんとに弱いなあ、君は。


ほんとは君が川に入ってから大きくするつもりだったんだけど・・・。

仕方ないよね、君が弱いのが悪いんだし。」


何故だろうか。

魔女は笑っている。とても笑顔だ。

その笑顔に震える。

背筋にスッと冷たい風が通ったような。

そのまま近付いてくる。


「・・・・え?」


魔女

「頑張ってね、死なない程度に。」


魔女に、川に蹴り落とされた。


「・・・っはぁ、っはぁっ!」


微妙な深さで、呼吸ができたりできなかったりする。

水流は大して強くない。


魔女

「冷たすぎるー?」


「こ、呼吸ができね、えよ!」


魔女

「呼吸ができなかったら死んじゃうねー!

なんとかしないといけないねー。

頑張りなよー!」


えー。

浅くしてくれないのー。

っていうかなんで最初に冷たいって聞くのー?

もっと他に聞くことなかったー?


魔女

「さてと、散歩でも行こうかな。

君を見ていてもどうせ、良い気分にはならないだろうからね。

死なないとわかっているなら、見守る必要もない。


それじゃあ、昼ぐらいにまた来るねー。」


えー。

ガチでこのまま数時間放置かよ。


「・・・っがはっ、はぁ、っはぁ・・・」


水流があるおかげで、顔が定期的に水面から出る。

その時にできるだけ呼吸する、。

それを繰り返したとしても、数時間なんて持つわけねぇ。

まだ3分も経たないのに息が上がってる。


「な、何とかして、体を、動かさ、、ない、、と、、、」


「ど、、どうにでもなれ!!!」


全身に力を込める。


体を動かすことに全力を注ぐと、息がよりキツくなるんじゃなんて思ったりした。

情けないことに、まだ3分もしない段階で息が上がり、既に余裕が無くなっている。

その状況で一発勝負に出る事が超怖い。


死なないとか、そういう話じゃない。

実際、死なないと言われただけで確証はない。


それでも、怖い。


もしこれが失敗したら、なんて考えたくない。


意思と相反して、瞬間的に脳裏に浮かぶ。

圧倒的な力の差を痛感し、ジワジワと押し寄せる苦しみに、成す術無く浸食される。



怖い




それでも、賭けるしか道はない。


「頼むッ・・・!」


ありったけの力を、体を動かすことに充てた。









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