30、罪による償い

◆◆◆◆◆


 これは夢。少女が生まれた時の思い出でもある。


 出産を終えた母親がまだ回復しきっていないにも関わらず二人の赤ちゃんに笑顔を送っていた。妃の世話をするバアバはその微笑ましい光景を優しく見守っていると、公務を終えた国王がやってくる。


 国王は二人の赤ちゃんを見ると、嬉しそうに顔を緩ませた。普段見ることがない笑顔に、妃は思わず微笑んだ

 しかし、二人の誕生は受け入れてはならないものだった。


「ミリア、聞いて欲しいことがある」


 それは、いつもと違う真剣な顔だった。それを見た妃ミリアは、身体を起こす。バアバに手助けしてもらう中、「どうしましたか?」と王に言葉をかけるとこう告げられた。


「王国には古い言い伝えがある」


 それは、王国設立に繋がる言い伝えだ。

 まだ神がいた時代、人は大きな罪を犯した。それは神の一柱を殺し、魔法を奪い取ったことである。


 これにより神は人を見限り、その姿を消してしまった。残されたのは神殺しをした大罪人と、力の弱い人々だけ。

 だから人々は大罪人を捕らえた。しかし人の力ではその精神と肉体を滅ぼせない。


 ゆえに人は選択した。大罪人から魔法を取り上げ、永遠に封じることを。自らの罪を償うために、自身を永劫の牢獄へ閉じ込めたのだった。


「魔法は牢獄の鍵だ。その魔法は、国王となるべき者に受け継がれることとなっている」

「それがこの子達にどんな関係がありますの?」

「この子達は二人とも同じ王位継承権がある。そして生まれたのもほぼ同時だ」

「双子ですからね。あ、じゃあ二人とも女王様になるんですか?」


「そうだな。喜ぶべきことだが、牢を守る番人にとってはそうではない」


 国王の言いたいことがミリアにはよくわからなかった。質問しようかどうか考えていると、ゼルクスは説明を続きを始める。


「この魔法は平等だ。資格を持つ者全てに与えられる。裏を返せば、牢を開ける鍵が資格ある者が増えれば増えるほど生まれる、ということだ」


 つまり、双子の誕生は本来祝われることではなかった。それを知った妃は複雑な顔をした。

 ゼルクスは困っているミリアのために、あることを告げる。それは思いもしない言葉でもあった。


「片方をある者に預ける。それで育ててもらう」

「つまりそれは、王家でなくなるということですか?」

「名目上はな。王家の伝承を知る者は少ないがいる。そいつらに対して建前を作っておかなければならん」

「ですけど、それは――」


「安心しろ、騒がれん。例え騒がれても手は打っている」


 ゼルクスの言葉は頼もしかった。しかし、それでも心配なものは心配である。

 そんな妻の心配を取り除くかのように国王はこう言い放った。


「何があっても守ってみせる。大切な家族だからな」


 国王の笑顔は頼もしかった。

 そして、それは力強くもあった。

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