27、英雄はかつての教え子と共闘する
◆◆◆◆◆
国王の部屋へと続く廊下があった。そこは大きな空間であり、大人数が通っても困らないほど広い通路となっている。
そんな場所で、刃がぶつかり合う音が響いていた。
「老いぼれのくせにやるな」
剣を振る国王は、競り合うノアを後ろへ弾いた。滑りながらも見事に体勢を立て直し、顔を上げたノアは余裕の笑みを浮かべる。
ゼルクスはそんな男の顔を見て、若干顔を曇らせた。全力で戦っている国王だが、相手は疲れを見せない。それどころか魔力を昂らせ、楽しんでいる。
国王にとって参った状況だった。いくら体調が悪く体力が落ちたとはいえ、敵を退けないほどだとは、と頭を抱える。
「お前が何者か知らないが、なかなかの腕をしてるな。全盛期はおそらく俺をしのぐ強者だったのだろうな」
「それがどうした?」
「楯突くことが利口だと思っているのか? 従うならばいいように扱ってやる」
「だから娘をやれと? ほざけ」
ゼルクスは駆ける。剣を振り回し、確実にノアの身体を切り刻もうとした。
だが、ノアはその連撃をいとも簡単に防ぐ。どれほどフェイントを入れ、本命を叩き込もうとしても全て弾かれてしまう。
ならば、と国王は目を鋭くさせる。同じ連撃を繰り返し、ノアを逃げ場のない隅へ追い込んだ。
「はぁぁぁッ!」
鬼気として迫るゼルクスに、ノアは思わずガードを取った。それが国王の狙いだと気づかずに。
ゼルクスは力いっぱいに踏み込み、渾身の力を込めて剣に一撃を叩き込む。すると剣はノアの手から離れ、壁へと突き刺さった。
それを確認したゼルクスはすぐさま切り返し、ノアの胴体を切り裂こうとする。だが、おかしなことに剣は空を切った。
「危ない危ない」
後ろから声が飛び込んでくる。ゼルクスは振り返ろうとしたが、すぐにやめた。
この状況で背を取られた意味に気づいたからだ。
「たいしたジジイだ。まさか剣を叩き折ろうとするなんてね。でもまあ、力不足だったね。といっても、掴んでられなかったけど」
ノアは右手首を擦りながら国王の首にナイフを突きつける。国王は剣を落とし、仕方なく手を上げた。
「素直は好きだよ。バカな奴ほど大好きだ」
「俺を殺しても何もないぞ」
「そんな訳ないさ。それに聞きたいことがある」
ノアは国王の耳元であることを囁く。それは国王に取って思いもしない質問であった。
「知っているだろ?」
「聞いたことがあるだけだ。場所は知らん」
「なるほど、いい情報だね」
「そんなものを手に入れてどうするつもりだ?」
「ぶっ壊すのさ。この世界の殻を」
ゼルクスはため息を吐いた。
おとぎ話にしか出てこない代物を手に入れてどうする、と説教したい気持ちになる。
だがノアは、いやノアに取り憑いた何かは本気でやろうとしていた。もしこのまま暴走させてしまえば、世界が混乱するだけでは済まなくなる。
「そのための魔法か。呆れた奴だ」
「どうとでも。俺はただ故郷に帰りたいだけさ」
ノアは勝ち誇ったように笑い、ゼルクスはどうするべきか考える。
どちらも切り札を切っていない。先に動けば負ける構図となっている。しかし、ゼルクスは劣勢だ。このままだと押し切られる可能性がある。
「さて、そろそろ返してもらおうか。あれは俺のだ。あの魔法がないと帰れない」
「断る」
「なら死ね」
ノアはゼルクスの喉を掻き切ろうとした。さすがに限界か、と考えた国王は切り札を切ろうとする。
しかし、その瞬間に思いもしない声が飛び込んできた。
「先生!」
それは、聞き慣れた勇ましい声。窓を突き破り入ってきたかつての教え子が目を血走らせ、部下を殴り飛ばす。
思いもしない乱入。しかしそれがゼルクスの助けとなる。
「たいした力だ」
だが、ノアも負けていない。
体勢を崩しながらもナイフを振り、ジャクシオの肩を切り裂いた。
痛みで若干顔を引きつらせる騎士団長にノアは追い討ちをかけようとする。しかし、それは国王によって防がれた。
『壁よ、刃を防げ!』
それは、聞き慣れない声と言葉だった。何度か耳にしたことがあるそれをジャクシオは耳にし、顔を歪める。
だが途端に、刃は甲高い音を上げた。まるで鋼鉄にでも刃を突き立てている感触がノアの腕に広がる。
「なるほど」
ノアはすぐにジャクシオから離れた。そのまま距離を取り、国王を睨みつける。
国王ゼルクスはノアを睨み返す。ジャクシオを助けるために手札の一つを見せてしまったことを考えつつ、戦略を練り始める。
「大丈夫ですか、先生?」
「それはこっちのセリフだ。立っていられるか?」
「どうにか。にしてもあいつ、なんつー変わりようなんだ」
「何かに取り憑かれている。助け出せるが、骨が折れるぞ」
ゼルクスの言葉にジャクシオは頭を抱えた。だが、ここで部下を見捨てるつもりもなかった。
だからジャクシオは、骨を折る覚悟を抱く。
「仕方がない奴だ。ところで、フィリスはおりますか?」
「戦いに乗じて隠れさせた。後で迎えにいく」
「なら俺も一緒に行きます。ちょっと叱らないといけないので」
「たいした親心だ。お前に任せてよかったよ」
ジャクシオとゼルクスはノアを強く見つめる。ノアはというと、不敵な笑みを浮かべるだけだ。
ぶつかり合う三人。それは王城にさらなる衝撃を走らせることになる。
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