きむぁら

るつぺる

木村

 木村がキマイラになった。俺ははじめソレが木村だとは気付けなかった。なぜならキマイラだったから。でもキマイラが何事もなく「おはよう」と言ったその声は紛れもなく木村だった。

「木村ーッ」

「どしたの 大声出しちゃって」

 たんぽぽが咲く静かな小道、蛇のカタチした尻尾が揺れた。


「木村! いったいどうしちまったってんだ!」

「何が?」

「何がってお前 朝、顔洗ったのかよ!」

「洗ったよ」

 そうさね。木村はドのつく近眼だった。だからか。や、だからかじゃねえよ! メガネ、サイズ合わねえよな!

「メガネはどうした! いや、それどころじゃないか! でもまあ先ずはメガネ!」

「今朝踏み砕いちゃってさ 正直あんま見えてないんだよね」

 そうさね。木村はやっぱり自分が見えてない。 としても! 四足ぞ! お前の腕だったアレ、前脚になっちゃってる!

「あのさ、なぜ四つん這いなわけ」

「うーん、なんか楽なんだよねこの体勢」

 そうさね。木村はバカなほど楽天家だった。楽天カーーードマー、やそれは関係なくて、とにかく木村が今キマイラなことを告げるべきか否か。俺は思案した。明日になれば木村は木村かもしれない。だったら今日くらいはキマイラでいさせてやるか。待てよ、明日キマイラだったら? それはまずいだろ。明日は平日だ。無論学校に行くだろ。木村が学校に行くのは何ら問題ない。だがキマイラはどうだ? 違うな。教室に居ていい存在じゃない。存在じゃない。だったらせめて俺の口から、いや待て。木村はショックを受けないか。今は木村がキマイラなことを木村も知らないラ。だから木村もフツーにしてイラ。でもひと度キマイラであると木村が自覚したイラら? キマイラーッじゃなくて

「木村ーッ」

「だから何?」

「落ちついてキマイてくれ」

「キマイて?」

「あのなキマイラ」

「キマイラ?」

「違! 木材ッイイいいから落ちつけ!」

「お前だよ。なんか変だぞ」

「変なのはお前イラ!」

「おい! いい加減にしろよ! 日本語もおかしいからな!」

「お前は日本の縁でさえないんだ!」

「なんだよ! エニシって! もういいもう帰るわ!」

「待て木村ッ 木村ーッ」


 木村は行ってしまった。俺はどうすればよかった。友達になんて言ってやればよかった。キマイラ見たの、はじめてなんだ。



※一箇所だけ「木村」が「木材」になっているよ! 探してみてね!

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きむぁら るつぺる @pefnk

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