番外編、火傷はコワイぞ、気を付けよう。

1、慢心乱心焦心?焼身の巻




これは「へっぽこ」の続きではあるんだけど、ちょっと時間を飛ばしてるので、とりあえず番外編として仮置きしてます。



※※※







やらかしました。


救急搬送再び(泣)



それも今回も自爆。


前回は抗がん剤拒絶やら断薬の動転による意識消失が原因だったけど、今回は火傷。それも全身火傷。


沸かしたお湯を自ら被るという、ありえないような失敗。


タイトル通り、慢心による乱心で通常ならやらなかったことをついやってしまったのだ。



具体的には、ヤカンでお湯を沸かして、それをポットに移すという普通の大人なら問題なく出来るそれの途中、左足がもつれ、頭から熱湯をバシャーッと被った。


幸い、沸騰中ではなく、数分はコンロから下ろしていたのだが、それだって熱いにはほぼ変わらない。




小心者はどんな小さなことであれ、約束を破るというような心にやましいことはしてはいけないのだいうことがよく分かったという教訓というか自戒というかの自爆話である。



数年前に手術して左半身が少し不自由になり、

「コンロは一人では使わない」と家族と約束していたのだが、火傷したその日、その時に限って魔が差した。そして、そういう時にこそピンチは来る。


その日、ダンさんは在宅仕事の日で別室で仕事中だった。だから邪魔をしないように、でもお湯を沸かしたくて、つい火をつけてしまった。電気ポットも台所にはあったし、せめてそっちでやれば良かったのに、


「一人で出来るもん」とつい我を張った。


ヤカンでのお湯沸かしと保温ポットへの移しは、家族が見てる前でなら何度かやっていたし、今回も問題なく終わる筈だった。


が、その慢心が心を乱し、乱れた心は体を固くさせる。


お湯が沸き、コンロの上から台へと移動させて少しした時、ダンさんがこちらにやって来る気配を察したへっぼこ。黙って火をつけてしまった後ろ暗さから、つい焦ってしまった。ヤカンを手に取り、保温ポットへと向けるも、左足が付いてこない。


グラッ、

「あ!」




あとは言わずもがな。


バシャーッ、ドターン、ガラガラ


瞬間、頭は真っ白。

でもすぐに我にかえる。


ヤバイ!

ヤバイヤバイヤバイ!


これ、ヤバイよー



「ギャー、助けて!」


コソコソ隠れてやってた癖に、いざとなったら助けを求めつつ、とにかく必死に立ち上がる。


そうだ、流水で冷やさにゃ!


この時のへっぽこの頭の中は母と祖母の声でいっぱいだった。


「火傷をしたら、とにかくすぐに流水で流しなさい。長く長くずっと!途中でやめないで、いつまでもかけ続けなさい」


母は祖母に言われてきたのだろう。へっぽこも小さな頃から何度も言われてきた言葉。母と祖母、二人の声がシンクロしてへっぽこの脳内でぐるぐる回る。


悲鳴に飛んで来てくれたダンさんに


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


何十回も謝りながら風呂場へと駆け込み、冷水シャワーを浴びまくる。






いや、これヤバイ。


マジでヤバイ。

身体の何割焼けると人間って死ぬんだっけ?


熱湯を頭から被ってるのだ。半袖に半ズボンは着てるけど。




ふと、そこで気付く。確か火傷の時って洋服をほっとくと、服と皮膚がくっついちゃって大変なことになった筈。


ヤバーイ!


へっぽこはシャワーを全身に浴びせつつ、濡れた半袖半ズボンを脱ぎ捨てながらシャワーを浴びまくる。頭はそんなにやられてない、と思う。でも顔にはかかった。それに肩とか背中がヤバイ!


「大丈夫?」


と声をかけてくれるダンさんに

「大丈夫!大丈夫。大丈夫」


と答えながらシャワーを浴び続ける。


大丈夫だと信じたかったのだろう。だが、どうも背中は既に水ぶくれが出来てるらしい。そんな声が聞こえた。


へっぽこは不自由な左手はしっかり手すりを握って転ばないように気を付けつつ、右手にシャワーを握り、最大水量で全身に冷水をかけまくった。その頃ダンさんは救急車を呼んでくれていた。


「とにかく流水で冷やすんですね。でも身体は冷やさないように、ですか。はい、はい」


救急の人と話をしているらしき声が聞こえてくる。それを聞きつつ、へっぽこはシャワーを浴び続ける。


流水で流しつつ、体を冷やさないように?


それ、難しくない?


心の中で突っ込む。その日は結構暑かったけど、そんな暑い日でも冷水シャワーって冷たい。身体を冷やす。


これ、冬だと大変だなぁ


なんて思ってる内に救急車が到着したらしい。なんかガヤガヤドヤ音がした。へっぽこは下着一枚でストレッチャーに乗り、バスタオルを大量に上に被せられて救急車へと乗せられた。そしてそのまま家から車で30分程のK病院へと搬送&入院と相成った。


実は、家から割と近く、元々の病気で救急搬送されて手術を2回受けて経過観察中のかかりつけとなってる総合病院にも救急隊の人は電話してくれたのだけど、なんと断られたのだ。


「命に別状ないなら受け入れられません」

みたいに言われたっぽい。


満床だっのだろうけど、かかりつけでもダメなことあるんだと知る。その後、もう一つの近所の総合病院にも連絡して断られ、その次やっとK病院が受け入れてくれたらしい。


「では、K病院へ向かいます」




K病院?どこそれ?


と尋ねる間もなく救急車は走り出す。横になりながら暗い窓の向こうに薄っすら見える見慣れた風景を目で追う。


あーあ、やっちまったよ(涙)


10日後には四年ぶりの旅行の計画があるのに。


そう、そんな計画があるから、へっぽこは左手足のリハビリを頑張っていたのだ。そして、前より少し動くようになってきていた、と思っていた。


そんな時に事件は起こる。いや事件でなく自爆だけど。


計画があるなら、尚のこと大人しくしてなきゃいけなかったのだが、ついもっと、もっとと欲しがるのが小市民。


今年のおみくじに書いてあった。


「足るを知れ」


みたいな意味の和歌。最初に読んだ時はよく分からなかった。自分なりに謙虚に生きてるつもりだったのだろう。でも火傷して知る。


おみくじは神さまの言葉。心してかからねばならんと。



結局、へっぽこはK病院に20日程入院していた。それも最初の10日はICUの次に重傷、つーか、手がかかるから看護師さんの数が多くて対応の厚いHCUというエリアにいた。火傷は皮膚を失う。皮膚のバリアがなくなる為、雑菌にやられやすい。それか酷くなると皮膚を削り取る手術をしなくてはならないらしいのだ。でも入院初期のへっぽこはそんなこと知らなかった。


毎朝晩、看護師さんが検温と採血と血圧測定に来る。そして痛みを10段階で示すならどのくらいかを尋ねられる。痛み止めが必要かどうか判断する為らしい。


「え、痛み?ないですよ」


サラッと答えたへっぽこ。


信じられないという顔をする看護師さん。


「えーと、じゃあ10段階なら1か2くらいかな」


とりあえずそう答えてみる。


このくらいの痛みなら、まだまだ耐えられる。

素直にそう思っていた。別にすごく我慢してたわけでもない。数年前の手術の抜糸の時と同じ。出産のラマーズ法で痛みを逃せられる程度。


「薬飲むの嫌なんで」


と、正直に話して納得して貰う。


薬を飲まない主義の人もある程度はいるのだろう。


「分かりました。でもいつでも痛み止めは出せますから我慢しないで声かけて下さいね」

優しい笑顔で看護師さんはそう告げると次のベッドへと向かって行った。


実際、火傷の痛みは想像よりずっと軽かった。だから痛み止めは結局入院中ずっと飲まなかった。そんなへっぽこは多分変わった部類の患者だったろう。


準救急扱いになるHCUの病室内は結構広そうだったけど、衝立とか色々で区切られていてあまり周りは見えなかった。多分5、6人は入院患者さんがいたと思う。そんな中を


「いたーい、いたーい、いたーい」


の声が響いていた。男性の声だ。若くはなさそうだけど甲高い。看護師さんと患者さんの会話が聞こえてくる。耳をすませてなくても丸聞こえ。


何でもリヤカーを押してて自動車事故に遭ったらしい。


リヤカー?


それも年齢90歳超。一人暮らししてたらしい。


昭和一桁生まれの強さを改めて思う。しかし痛いのはどうにもならないらしく、痛い痛いと大声を出してるのが気の毒になるが、痛み止めは一回飲んだら次まで少し間隔をあけないといけないそうで、その間はじっと我慢の子しかないようだ。


でもそのお爺さんは我慢しきれない。


「痛い、いたーい、痛いってば。おーい」


すぐ呼ぶ。



最初、看護師さんは気を紛らわせる為にだろうか、何度か同じようなことを質問したり会話したりしていた。でも患者さんは他にもいるし、その内にちとつっけんどんになっていくのが口調でよく分かる。そして、サーッとと離れていく。

でもお爺さんは多分そんなの気付かないし気にしない。


「おねーさん、ちょっとおねーさん!おーいってば」




大きな声で呼ばわってしまった。



あー。それ、アカンやつ。

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