第35話 二人のマダムの教え

入院中は、夕食後に給湯室にお湯を貰いに行くついでに談話室に寄って家族に電話をしていた。でも、携帯を耳に当てて通話していると気分が悪くなってしまうので、イヤホンを付けてハンズフリーで話すようにしてた。画面を見るのも辛くてなるべく遠ざけていた。どうも電磁波アレルギーになりかけてたっぽい。

で、その日もサッと話して病室に戻ろうとケータイを見たら、珍しい人から着信が入ってた。その昔、お仕事を手伝ってた女性Rさんだ。Rさんは、とある広告会社でバリバリ働いてて、その後たくさんの本を出したり講演会をやったりしてた。でもへっぽこが手伝ってた仕事の方はあまり波にのらず、収益的に厳しくなったので、一旦休みということで、へっぽこはその後、別の人の仕事をしてた。




何だろう?と掛け直してみたら、どうもFacebookでよく出てくる

「知り合いかも」でRさんと、足ツボのマダムが繋がったらしい。偶然、リアルで足ツボのマダムの息子さんの学校にRさんが講演会に行ったらしく、その講演会を聴いて感動し、二人意気投合した所にへっぽこが互いの知り合いということがわかり、それで驚いて電話をくれたようだ。Rさんと足ツボマダム。確かに二人ともパワフルなマダムで、意気投合してなんら不思議ない。類友とはよくいったものだと思う。その仲介にへっぽこが入ったというのが不思議過ぎるが。それにしても興奮していて、いつも張る声が常より更に大きい。それに合わせて喋るとなると、ハンズフリーだとこりゃヤバい。慌てて談話室内の電話ボックスの中に閉じこもる。



Rさんは、ダンさんが前々職にいた時に、仕事上で関わりがあったらしい。広告関係だから時間とか金額とか著作権とか会社間の調整とか色々大変だったようだ。それでRさんがひどく困ってた時に丁度ダンさんが深夜までその対応をして、事なきを得たとかで恩義に感じて下さったらしく、ご自宅に招待されてからの付き合いだった。都心の海沿いのタワマン高層階。初めて見るお洒落で豪奢な世界に、小市民のへっぽこは圧倒されるばかりで、出されたお料理もワインもどこに入ったのか分からないような状態で、帰りはどっと疲れきったことだけ覚えてる。でも何故かへっぽこのことも気に入って下さって、数年間だけお仕事を手伝ったのだった。でも、仕事が終わってからはほとんどやりとりもなかったのになんだろう?




「あのね。実は私も一年と少し前くらいに手術したんだけど、今はもうスイミング出来るくらいに復活したからあなたも大丈夫よ。だって私には仕事があったからね。あなたもリハビリに仕事するといいわよ。落ち着いたら連絡ちょうだいね」


そう言ってくれた。足ツボマダムから私のことを聞いて、励ましに電話してくれたのだ。有難いと思った。出来る女の人にありがちな、ちょっと破天荒で突っ走り気味な所もたまにある人だったが、基本は親切で明るくて面倒見の良いアネゴのような人。


だけど、その時のへっぽこは、それはRさんがパワフルで仕事大好き人間だからこその発言だと思っていた。やっぱすごい人だなぁ、人間が違うんだよなぁと半ば他人事のように聞いてたのだが、最後に一言。


「少し無理をするくらいに動かないとダメよ」

そう言われた。


大事にし過ぎるとあまり良くないらしい。


また、足ツボマダムもその後にメッセージをくれた。


「足ツボを続けなさいね。よくわからなくてもやらないより、少しでもやった方が絶対いいから」


二人のパワフルなマダムのアドバイス。足ツボは毎日毎晩やってた。でも、とある事情から、元の仕事、家事にはへっぽこは戻れなかった。


先達の教えは正しかった。どんな困難でも動かにゃあかんかったのだ。それを今、痛感している。早く元気になる。元の気に戻す1番の方法。日常生活に戻る為の一番いいリハビリは、入院前の仕事、家事。それらをちょっと無理してでも頑張って続けていくこと。身体も心も筋肉で、使えば強く太くなっていくけど、使わないと細く弱っていく。そこまでいってからの復帰はなかなかに厳しい。



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