第29話 レーザービーム定位置照準スタンバイOKです

そうして連れて行かれた放射線治療室。一回来てるから気持ちは落ち着いている。受付でリストバンドを見せて氏名を言って、車椅子でソファの前を通過する。どうやら今は治療中ではなさそうだ。ってことは、次はあたしかい。目の端に映るテレビでは、お昼の番組をやってるっぽい。朝ドラの再放送かな?あれ、今日お昼食べたっけ?とかボンヤリ考えてたら、何人かの男性がワラワラと廊下に出て来た。白衣の人と水色の人、だったかな。その水色の男性が重たい扉を開き、車椅子が中に通される。


途端、聴こえてくる安田成美さんの声。


「きんいろのー」


おぉっ、ナウシカがかかってる!


自分でリクエストしたものの、本当にかかっててびっくりする。サントラが聴こえた瞬間からへっぽこの頭の中はナウシカの名シーンがいっぱい。メーヴェのポフって音まで聞こえる気がする。



 そこでハッと気付いたら、治療室の重い扉が閉められていて、車椅子はカプセルというかドラム缶みたいな白い機械に横付けされていた。


「へのさん、こちらのベッドに横になっていただきたいのですが、立てますか?無理そうなら抱え上げさせていただきますが」


男性の看護士さんに言われ、慌ててへっぽこは立ち上がった。


「大丈夫です。歩けます!」


そんなみっともねぇこと出来るかい。


と口は勢いよく、でも足元はヨロヨロと車椅子から離れ、ベッドへと向かう。ドラム缶の穴?から引き出されているベッドに横になる。


「あ、もっと上に。ここに頭を乗っけて下さい」


「はぁ」


言われるままにズリズリと上に向かって動くが、どうも位置が悪いらしい。


「すみません、失礼しますね」


と声をかけられた直後、へっぽこはあっさり持ち上げられて移動させられていた。いや、へっぽこは平均より痩せ気味な方と思うが、看護士さんは男性も女性も力持ちさんが多いのだなと感動した。


「では、体が動いてしまうといけないので、ベルトを掛けさせていただきます」


と言われ、ガチャンガチャンという音と共にお腹から下が拘束された。因みに腕も一緒にだ。完全拘束。


——ヒイィ。逃げるなってこと?


それでは次に先日お話ししたマスクを付けさせていただきます」


なんか、顔の上に白い布みたいなものが被される。何も見えん。でも息は出来る。これがマスク?やはりチャーリーズエンジェルか。


なんて思ってる内に、頭もしっかり固定されていき、首も動かなくなる。なんかミイラにでもなった気分。なんやねん、これ。


やがて、ベッドがガラガラと動き出した。ドラム缶の中に入れられたっぽい。


うーん、ナウシカのガンシップに乗せられた気分になってドキドキする。選曲を誤ったか?……って今更だ。流れる曲は耳に届いている。それが幸か不幸か考える間もなくドラム缶の機械が動くような音。ガンダムとかエヴァが射出される時になんか回転する記憶あるけど、あんなイメージを連想したような気がする。いや、あたしは闘いに行くんじゃなくて撃たれちゃうんですけどね。ま、それも闘いと言えば闘いか。



後から調べたら、マスクは固定の為と、正常な部位を守る為に定位置に固定して正確な

照準を合わせる為に作られるとか。そんなの知らなかったけど、とにかくナウシカの世界に没頭していたへっぽこだった。でも、きっと照準合わせてる方はガンダムな気分だったのではないかと思ったりする。なんて言ったら不謹慎だろうか。あ、悪気は全くないのでお許しを。へっぽこの適当な覚え書きなので、色々と間違ってるのは目溢ししてね。


と言うわけで、スタンバイOK。治療が開始された、のだと思うが、見えないからわからない。ただ、ナウシカの音楽のおかげで、蟲たちの姿が見えるような気分でいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る