第22話 笑わにゃ損、損
入院してすぐ、手術準備に入った。でも2回目だしなぁ、とある意味のんびり構えてたへっぽことは違い、今度は何だか先生たちの雰囲気が最初の手術の時より緊迫してるように感じる。抗ガン剤があるからかな?と思った。
「今度の手術も3、4時間くらいですか?」
呑気に聞いたへっぽこに、Eらい先生は、その大きな目をカッと見開き、
「いやいや、今回はちょっと取るだけとは違うから、その倍はかかりますよ」
何言ってんだ、と呆れたように言われる。
そんな顔されても、こちらはそんなん知らんもんと思ったけど、口答えやオフザケの出来る雰囲気ではなく、へっぽこは、はぁと頷くしかなかった。
「正確な所要時間は今の段階では何とも言えません。現状では、最新のデータを元にアレを見てコレして、うんたらかんかんたら」
なんか知らんけど、Eらい先生は興奮して喋ってる。その側にK田先生とU村先生。そして、看護士さんたちズラリ。
「まず、手術を行ない、それから適宜検査の結果を見て、状況を確認しながら放射線と抗ガン剤を開始していきます」
Eらい先生の言葉に、皆が手元の資料らしきものに何か書き込んでる。
なんか、これ既視感アリアリなんですけど。
そう。生物の実験の授業みたい。ってことは、実験動物はあたし?
果てしなく暗〜い気持ちになりながら、枕元の本に目をやる。そこには、中村天風先生のオレンジ色の本。
皆が去った後に、ペラリとめくる。一番最初の「力の誦句」を読む。
わたしは力だ。
力の結晶だ。
何ものにも打ち克つ力の結晶だ。
だから何ものにも負けないのだ。
病にも 運命にも、否
あらゆるすべてのものに打ち克つ力だ。
そうだ!
強い強い力の結晶だ。
『天風誦句集』より
とある。
※松本幸夫著「中村天風の教え」
自身も病に負けそうになりながら克服した中村天風先生の言葉。中でもこれは一番パワフルに響いた。
そうだ。負っけるぅな、ファイト〜だ。ウル〜トラマ〜ン♩
元ネタはよくわからない、自作のウルトラソングを心の中で熱唱する。多分、過去に適当に息子にでも歌ってたのだろう。元気の出ない時には自分で自分に歌う。これはへっぽこの昔からのルールだった。それも鏡を見ながらが効く。鏡、それはもう一人の自分。小さな頃からの愛読書「赤毛のアン」で、アンは孤児院の食器棚のガラス戸の中の友だち(自分)に向かって話しかけて元気を出していた。それを真似てたのだが、大人になって使うとは思わなかった。
「グフフフフフ」
こっそりと不敵に笑うへっぽこはさぞ気味が悪かったろう。でも、へっぽこは笑った。
踊らにゃ損、の阿波踊りではないが、笑わにゃ損、くらいに不気味にクククと笑った。
いや。勿論、誰も側にいない時にカーテン閉め切って、なるべく声が漏れないように周りがうるさい時とかにね。でないと、余計な心配かけるから(笑)
不思議と、笑うと心が落ち着く。例え、その笑いが邪悪な顔をしてたとしても口の端を無理矢理持ち上げて笑いの形を作るだけでも、何だかウキウキドキドキしてくるのだ。これは後に別の書籍を読んで納得することになるのだが、まず体が動き、それに心が付いていく、その法則を知った最初だった。
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