第21話 足ツボ効果とジンクスと愛機との別れ

詐欺のようだと考える向きもあるかもしれない。へっぽこも金額聞いて一瞬迷った。でも、進むか引くか悩んだ時には、進むのがへっぽこだった。ダンさんに無理ムリお願いして我儘を通させて貰う。正直、最初は苦い顔をしたダンさんだったが、最後には承諾してくれた。金庫の中に緊急用にしまっていたなけなしの10万を取ってきて、ダンさんに渡す。


「これでお願いします」


で、翌日にマダムが到着。施術して貰う。本当は別料金なのだが、せっかく来たからサービスだと言って、無料でダンさんの足裏も診てくれた。悲鳴が聞こえたが、へっぽこは既に終わってたので、お水をゴクゴク飲んでいた。マダムはダンさんの施術を終え次第、その足ですぐに帰って行った。9年ぶりでもほとんど変わらぬマダムぶりで、また変わらずパワフルだった。そして超薄着だった。年末年始の寒い時期なのに。そういう人だったのだ。心身ともに強靭な人は暑さ寒さに強いのかもしれない。最初に会った時は寒そうに見えたけど、それはへっぽこの勘違いだったのか、寒いけど我慢が出来る人だったのか。何はともあれ、お節介なへっぽこが話しかける機会をくれただけなのかもしれない。


 で、肝心な施術の効果はと言えば、実はあまりよくわからない。というか記憶が何故かぽんと飛んでる。痛かったのだろうが、それよりなんと言うか、あ、これで大丈夫だと思った記憶だけ残ってる。


 結論から言えば、へっぽこの癌はスッキリサッパリとは消えなかったのだろうと思う。施術の前後で検査したワケじゃないから確かめようはないけど。でも、へっぽこのその子は、そんな簡単に消えてくれるような可愛い大きさの癌ではなかったし、それにへっぽこの頭は理詰めのカチカチ。素直なおばあちゃんとは違った。ただ、マダムの不思議なパワーだけは貰って、よし、出来る限りのことはやったぞ。これで何があろうと悔い無し、という充足感だけは得られた。多分それで良かったのだ。


 また、その短い2週間の間にへっぽこは身辺整理もしておいた。


よく、死ぬ前には虫の知らせか身辺整理をすると聞く。実際、へっぽこの父もそうだった。だから身辺整理をしたらいけないという噂を聞いたこともあったけど、その時のへっぽこ宅では、通帳から印鑑から生命保険やら連絡先から何やら、PCも暗証番号も全てへっぽこ管理の元にあった。本当にへっぽこが死んでしまったらヤバイ。


へっぽこは思いつく限りのメモを書き残し、それから家族にも見られたくないような黒歴史?ものなどはこっそりまとめてゴミとして処分し、当時開いてたブログのワードプレスデータや画像データ、書き溜めてたテキストデータなど、愛機MacBook Air1stちゃんのデータのバックアップも思いつく限り取った。そして再度入院する直前に

「今までありがとね。行ってくるね」と声をかけてシャットダウンして病院へと向かった。


 二度と帰れない覚悟もした上で家を出ることで、全力で手術を乗り切ろうと思ったのだ。


 まぁ、一回目の手術の時に既に三途の川を渡りかけてるので、今思うとタイミングを外してる感もあるのだが、へっぽこ的には、準備万端だと、そっちには進まない、というマーフィーの法則?に則りたかったのだ。ジンクスって結局本人の心を整える為にあるのだと思う。


 そうして着いた病院では、同じ病室の同じベッドと景色が待っていてくれた。ちょうど患者が少ない時期だったのか、またはへっぽこの次の手術の大変さゆえと手術日程により確保されていたのか、よくわからないけど、素直にラッキーということにして、また入院生活が始まった。

しかしそこからの2ヶ月は本当に長かった。もう2度と戻りたくない。


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