第19話 閃きはアニメから
それは平成最後のお祭り騒ぎの冬休み。
クリスマスにはナウシカが洋画劇場で放映される。それまで、ジブリで一番好きなのはと問われれば、ラピュタと答えていた。でも、その日に放映されたナウシカを観てからは、ナウシカが一番になった。当然過去にもナウシカは三度以上観ている。でも、観るタイミングによって人は全く違う受け止め方をするのだと、よく言われるその言葉がズシンときた。
「腐海の樹々は人間が汚してしまったこの世界を綺麗にしてくれている。大地の毒を取り込んで、綺麗な結晶にしてから死んで砂になっていく。蟲たちは、その森を守っている」
その台詞を耳にした途端に、あっと思った。自分の身体の中で起きてることと同じじゃないかと思ったのだ。
ガンの細胞は遺伝子のコピーミスと言われる。そうなのかもしれない。では、何故コピーミスが生まれる?そして異物と認識されて免疫細胞に攻撃される?元は同じ仲間の綺麗な細胞だったのに、何故変異した?
毒だ。毒を取り込んだからだ。ガン細胞は腐海の樹々や蟲と同じなんじゃないか?
へっぽこが生まれてから病気で倒れるまでの間に溜めに溜めた毒。身体はそれを精一杯、身体の外に出そうと頑張ってきてくれていた。若い内は難なく処理し、排出も出来るそれが、年々増える毒に紫外線に、また電磁波まで浴びまくっていては、コピーミス頻繁。対処が追いつかない。身体の中のそれぞれの細胞はそれぞれ一つずつ命を持っていて、働いてくれている。肌の細胞は肌として水分を溜めて発散して、怪我をしたらそれを修復してくれている。日々生まれ変わりながら、身体の一つの機関として懸命に働いてくれている。単細胞生物のゾウリムシやミドリムシ、アメーバーだって、それぞれ生きて働いている。そして、命あるものは本能として、生き残ろうとする。種の保存。それはガン細胞だって同じだ。生まれた以上、生き残ろうと生を求める。食を求め、ライオンが群れの最後尾の遅れたシマウマを狙うように、弱い所を見つけて喰い始める。それを守ろうと免疫細胞がやってきて戦いが起きる。戦いがあれば、火が燃え、大地は焼かれ、水は枯れる。風も止まる。結果、身体の中は炎症だらけ。ガン細胞はへっぽこの身体の中の毒をその身に一身に背負って王蟲のように膨れていたのかもしれない。
ガン細胞も生きたい。でもへっぽこも生きたい。
——では、どうすればいい?
ナウシカになればいい。
へっぽこはそう思った。
ごめんね、と謝り、心を開いて腕を広げて王蟲を受け入れる。
馬鹿げた話と思われるだろうけど、その日のナウシカはへっぽこの中にそんな、悟りのような閃きを与えてくれた。
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