第8話 手術の前にすること、出来ること
手術すると決まったら、今度はそれに向けて準備が始まる。看護師さんやら薬剤師やら麻酔の先生やら沢山の人が書類を持ってやって来て細々と聞かれ、よくわからないけど、同意書にサインをしていくばかり。
「アレルギーとかはありませんか?」
花粉症とか金属とか色々持ってたので、全部出せるだけ出しておく。輪ゴムや絆創膏も手につけてると痒くなるタチだったのでそれを伝えたら、手術時に使うホースが普通はゴムらしく、それがなんか違う安全そうな素材になった。ホッ。アレルギーが全くない人は少ないと思うが、もしかしたらたょっと痒みが出たことがあるかも?くらいでも多めに伝えておいた方がいいかも知れない。
ちょっと身構えたのは輸血とその反応に関する同意書。輸血は出来れば避けたいと思っていたので、うーん、うーんと悩んでいたら、主治医の先生がやってきて、色々親切に説明してくれた。優しい先生で良かった。今回の手術は輸血無しで大丈夫そうだけれど、なんか接合?か何かに輸血の成分を使った糊を使うらしい。糊程度ならしょうがないと同意書にサインする。
その間、ダンさんは大忙しだった。私の母や弟妹、それに親友に連絡してくれていたらしい。でもへっぽこはそんなの知らずに図書館で借りた本とかを読みまくっていた。
手術前に御守りのようにして読んでいたのは、松本幸夫さん著の「中村天風の教え」。習っていた合気道の誦句の「座右の銘」とも繋がりが深く、稽古前にいつも皆で暗誦していたので、身体に染み込んでいた。
この『座右の銘』が入院、手術、またその後退院してからも大きな支えになってくれる。
「今日一日怒らず怖れず悲しまず、正直 親切 愉快に、力と勇気と信念をもって活きよう」
(一部変更省略してます)
これを朝昼晩、検査前などに小さな声で唱えまくる。同じ病室の隣のベッドの人からは薄気味悪く思われてたかもしれないけど、とてもそれどころじやなかったのでゴメンです。それに、その方、病室内ではスマホ通話はダメなのに、結構話してたからお互い様かな。入院中は皆、自分のことでいっぱいいっぱいだものね。
よく、リラックスする為には深呼吸しろと言うけれど、そう言われても緊張してる時には深呼吸なんか出来ない。でも呪文を唱えることで息を吐き切るとが出来るので、暗誦はかなりストレス軽減に役立った。歌でもいいんだろうど、病室では歌えないしね。般若心経でも大祓詞でも走れメロスでも宮沢賢治さんの雨ニモ負けずでも何でも、ある程度の長さのもので暗誦出来る好きな句を持ってると、ちょっと緊張する場面とかで普段から使えるからオススメ。特に病気や怪我、入院なんかはいきなり来るから、ある程度想定して準備しておくといいかも。定期検診とかドッグでも気になる数値を抑えてくれる効果があるとかないとか本で読んだ。とりあえずへっぽこには、人人人と書いて呑み込むより句の暗誦の方が緊張緩和の効果があった。また後にも書く予定だが、軽めのてんかんの発作をそれで抑えられたのには我ながらビックリした。
さて、手術までの残り時間、あとはひたすら読書。現実逃避には活字に向き合うのがへっぽこには一番。没頭するタチなので多分結構なり速読派。ザザーって一気読みして、好みに合い、良いと思った本は二度読み三度読みする。宮崎駿さんと高畑勲さんの分厚いジブリ対談本をフムフムと読み切り、当時愛読してたカーネギーの本を熟読し、あとは魚座のロマンチストなダンさんがセレクトして図書館から借りてきてくれた可愛らしげなほのぼの絵本をパラパラ眺め、もっと濃ゆい本が読みたいのになぁとか我が儘なことを思っていた。
夜は、給湯室にお湯を汲みに行きがてら、談話室の黒猫ちゃんにご挨拶して、ヌイグルミたちに囲まれて耳栓して眠る。三度の食事はあったかくて美味しかった。元々好き嫌いはなかったし、基本、出されたものは有り難くいただく主義なので、普段はあまり食べなかった煮魚、焼き魚も美味しくペロリといただいた。というか、入院中だから当然なんだけど、食べた量とか身長体重、排泄も睡眠も色々細かくチェックされるのだ。とっとと手術して退院するつもりだったへっぽこは、優等生患者として頑張っていた。ただ食事の牛乳ヨーグルト類は断れたので、サラリと断った。
しかし、いい加減この牛乳神話は見直されないのだろうか。日本人の大半には、牛乳は合わないらしいのに。日本人には、昔からの昆布と小魚が一番合ってカルシウム吸収率もいいらしい。無論、牛乳が好きで体質が合う人はそれでいいと思うけど、給食とか病院食で、飲んで当たり前的な風潮はそろそろ見直されていいんじゃないだろか。でも、まともに闘うのは消耗するだけで無駄なので、へっぽこは「お腹壊しちゃうんですぅ」とブリって逃げた。
ちなみに息子の学校給食ではそうしていた。アレルギー対応は、書類を提出しなきゃならないので、馴染みの漢方内科の先生に『乳糖不耐症』と診断して貰った。
さて、そんな中、ダンさんと息子は毎日病院に来てくれた。でも、それもまたへっぽこには気懸りだった。実はダンさんは転職したばかり。おまけに鬱の薬を飲みながら。また無職になったらどうしよう?と案じていたのだ。
手術前だから、本当はストレスなく、グースカ熟睡しておかないといけないのだが、そんな状況だったので、心配は尽きなかった。ま、でもしっかり眠ってたけどね。その当時、手術前のへっぽこは、枕が変わっても車の中でも、割とどこでも平気で眠れる便利な身体だった。
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