熱狂への焦がれ

響華

不燃

 推し。

 っていう言葉に関して、いまさら論ずる必要は無いと思うけれど。自分が好きなものだとか、自分が追い続けてるものだとか、そういう推しに対して、狂うことの出来る人間が何人か存在する。


 だいたい6年くらい前から、とあるソーシャルゲームをやっていた。いわゆる最初期の、パズルを繋げて相手にダメージを与えてダンジョンをクリアするあれだ。

 この形式のソシャゲが結構好きで、プレイヤーの実力次第ではある程度の性能差なら誤魔化しが効く、というのが特に好きなところだった。最近はまあ、そうではないんだけれど。少なくとも推しで勝つために努力が出来る、という点はそういうプレイヤーの精神に優しく、同時に厳しいものだと思う。


 この響華という男は好きなキャラの見た目が幅広いので、どちらかと言うと愛着で推しを決めるタイプである。

 リセマラみたいなことはあんまりせずに、とりあえずビビっと来たキャラを選択して、そんなこんなで約6年間、一生そのキャラを擦り続けている。


 愛着で好きになるタイプなので、1度こうなるともはや惰性でも擦り続けていられるのだけれど、明確に一時期違う熱意を向けていた時期があるのを覚えている。


 この手のゲームには大体高難易度のダンジョンが存在して、俗に言う環境・人権みたいなキャラがこぞって挑戦していくのだけれど。推しが居る人の一部はそういう高難易度を自分の推しでクリアすることを目標としていた。

 それがそのキャラを見て欲しかったのか、推しを通して攻略する自分を見て欲しかったのか、当時やっていた自分でさえ確信を持って言える訳では無いけれど。とにかくそういう文化の中で、自分はかなり積極的にそういうことに取り込むタイプで。そして、幸運にもそこそこゲームが上手い人間だった。


 勝った、満足した、達成感を得た。

 じゃあどうしよう、次をやろう、それも終わった、次をやろう。


 勝ってそう思う分には、全くもって健全なことだ。勝つのは楽しい、負けたら悔しい。

 そう、負けたら悔しい。推しを活躍させることが出来ずに負ける、これが本当に悔しかった、吐くほど悔しかった、というか当時まじで吐いた。


 一回しか挑戦できない部活の大会とかならまだしも、たかだかゲームのそれも1ダンジョンで負けたくらいで吐くのは、はっきり言ってまともじゃない。

 そんなまともじゃない精神状態で、まともじゃないからこそ。繰り返し繰り返し飽きずに同じものについてずっとずっと考え続けて可能性を模索するような。そんな狂気じみた事をやっていたわけだけど。


 これが多分、推しに狂うということなんだと思う。狂っている間は、辛いし病むけど、有意義だ。持てる時間のほぼ全てを推しを強くするために割くことが出来る。少なくとも、愛情なんて言う不確かなもので弱さを補えると自分を慰めている時間よりは余程有意義だ。


 ただ、まあ。そんな熱も、知らず知らずのうちに失っていたわけだけれど。

 別にそのキャラが推しじゃなくなったわけでも、好きじゃなくなった訳でもない。そのキャラで勝ちたいって気持ちも失われてはいないんだけど、ただ本当に四六時中そのキャラを強くする方法を考えてるわけじゃなくなって、時折いい編成を思い浮かべてはチャレンジし、失敗したらそうかと諦めるようになっただけだ。



 カードゲームをやっている、最初に使ったデッキを、手を替え品を替え一生擦り続けてる。

 推しのテーマでカードゲームが出来ればそれだけで楽しいという人がいて、そういう人のことを尊敬しているけど、決して理解はできない。


 負けるのは悔しい、負けると嫌になる、好きなデッキで負けると好きなデッキを嫌になる。好きなデッキを好きで居続けるには、いつまでもそのデッキで勝てるように努力し続ける必要がある。


 勝つための努力はしんどくて、苦しい。それでもその努力で勝った時の喜びは大きくて、喜んでその熱の中に中に身を投じてたいと思う。


 ソシャゲをやってた時も、そう思ってた。今更頑張るためにもう一度狂いたいと思っても、自分から熱狂することは出来ない。


 いつか、カードゲームで推しを使って負けても、しょうがないかで諦める時が来るんだろうか。

 あるいは、文字を書いていたいという願いさえ消えてしまうだろうか。


 願うなら、一生狂っていたいと思う。あるいは、燃えて残ったカスの山に、もう一度くらい火をともさせてくれないかと、そう思う。

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熱狂への焦がれ 響華 @kyoka_norun

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