ギア・ファイト
ツヴァイクに促される形になった、数日振りの外出。
屋敷に運び込まれた時は満腹感と溜まった疲労で熟睡したままだったので、王都ゼロニアスの風景は、窓からしか眺めた事しかなかったが……、
その時と、実際に外に出て見るのでは、解放感からか景色の見え方が大きく違って見えた。
しかし、ツヴァイクの屋敷周辺は高級住宅街らしく、あちこちの大きな屋敷ばかりが目に入り、人の行き来も非常に少ない。
時折、庭の手入れや、表の通りを掃除している使用人らしい女の子達が仕事をしながら、ちらちらこちらを見ているような気がするが……
……流石に自意識過剰だろうか?
眼を背けられたりはしないので、不審がられたりしているわけでもなさそうだけど……
それにしても、この区画はどこもかしこも豪邸ばかりで、もらった小遣いを使うための店らしきものが全く見当たらない。
恐らく、ここに住んでいる金持ち達は、ちょっと買い物に行くという発想がなく、買い物をするときは使用人に行かせるとか、御用商人を呼び出して物を買うのだろう。
「……まったく、この小遣いはどうすればいいんだ?」
ぼやきながら、少し離れたところまでいけばなにか店があるかもしれないとしばらく道なりに進み、視界の開けた高台から周囲を見渡したところ、下の方に人々が行き来している大通りが見えた。
あの通りでならば何か面白いものが買えそうだと思い、さらに道なりに進んだ先の昇降機を使って大通りに降り立つと……
様々な店の並ぶ大通りだけあって、物静かな上とは違い、こちらは道行く人々や客引きをする店員で上の静けさが嘘に思えるほどのにぎやかさだった。
ごく普通だと思われる町娘っぽい子や、昇降機や町を警備しているらしい女性兵士をみて、しっくりくるようでどこかが違うような感じのする違和感を覚えてしまったが、
上下に分かれた金属製のビキニアーマー……
しかも、下はお尻がほとんど丸見えなTバック状になっていて、ちゃんと防具としての役割を果たすのか疑わしいものを身につけている戦士や……
とんがり帽子をかぶり、胸元が大胆に開いており、スカートに大きなスリットが入った、どことなく魔法使いを彷彿とさせる女性をみて、思わずそちらの方に意識を持っていかれてしまった。
いかんいかん、こういう視線を向けるのは相手にとっても失礼だ。
そう思って視線を横に向けるが、これも男のサガなのかついつい横目で追ってしまう……
……だが、次々と道行く人々を眺めるうちに、少し先でなにやらにぎやかな人だかりが出来ているのに気づいた。
「ん? なんだあれは……」
近づいてみると人だかり中から、なにか激しいぶつかり合いの音と気合の入った声が響いてきている。
その中では何が起こっているのだろうと、観衆の脇をすり抜けてなんとか中が見える場所まで入り込むと……
「でりやぁぁっ!!」
「うおりゃぁっ!!」
ストリートファイトとでも言うのだろうか、手に不思議な輝きを放っているような武器を持った二人が、激しい勢いでそれらを振るい闘っているのが見えた。
「な……なんだぁ!?」
お互い何度か攻撃が相手に当たった際、痛そうな表情をしていたが、当たった個所には特に大きな怪我はなく、血も流れていないため別に殺し合いをしているわけでもなさそうだ……
「ヒートスラッシャー!!」
「くッ……!」
そして、さらに驚いた事には片方が剣らしい武器を上に構えて力を込めるように目いっぱい振りかぶると、等身から赤い刃の様なものが相手の方に飛んでいったのだ。
「な……なんだ今のは!?」
普通、どんな風に剣を振るっても、剣からあんなものが飛び出す様な事はないはず……
なにか仕掛けをしていたにしても、わざわざ剣を振るう必要だってない。
あの二人が持っているのはいったい……?
そうやって不思議に思っていると……
「あら、アンタ珍しいものを見る顔してるわね、ギア・ファイトを見るのは初めて?」
「ギア・ファイト……?」
何者かに声をかけられ、思わずその中にあった聞きなれない単語をそのまま口にして振り向くと……
そこには手に鉛筆とメモ帳を持ち、胸元にかけた箱の中に恐らく貨幣と思われる金属製のコインらしいものを入れている丸眼鏡をかけた少女が、ニヤリとした表情で俺の事を見つめていた。
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