殿下からの無茶ぶり
「……というわけで、キミに領主をやってもらう事になった。」
「はい?」
目の前の容姿の整ったクール系美男子のいきなりすぎる辞令に、俺はしばらくの間思考停止してしまった……。
微動だにしない俺を見て、目の前の美男子【ツヴァイク公】は何か思う事があったらしく、コホンと軽く咳払いをし……
「どうやら理解が追い付いていないみたいだね、それじゃあ最初から説明させてもらおうか。」
まるきり理解できていない自分の為か、はたまた説明をすっ飛ばしすぎた事への反省か、俺が今置かれている状況と、なぜ先ほどの無茶ぶりを振ったのかに対して詳しく説明をしてくれる事になった。
「……つい先日、僕の弟の【リックス公】が、ここ王都ゼロニアスの北で発見された遺跡を調査しに行った時の事だ。
野営をしている最中に、何者かに食糧の一部を奪われるというトラブルがあってね……」
その話はよーく知っている。
何故俺が領主に任命されることになったのかと言う説明とは、いささか状況が合ってないとは思うのだが……
「リックスと護衛の皆が必死に捜索をして、何とか犯人をとらえる事に成功したのだが、なんとその捕らえた何者かというのが……」
「目の前の俺だった……って訳だな。」
……そう、極度の空腹で完全には覚えてないが、食い物の匂いにつられ一直線に向かっていった先で、俺の行動を邪魔しようとする連中と大立ち回りをした覚えがある。
「何故、あんな所にキミが居たのかは知らないが、食事をして一通り落ち着いた所で話が通じる事が分かったため、ここゼロニアスに案内して、この屋敷で事情聴取を行ったわけだ。」
「残念な事に、何故あんな所に居たのか……
そもそも自分が何者かという事すらわからないけどな。」
そう、腹が膨れて落ち着いた所で、色々と尋問されたのだが、俺自身なんであんな所に居たのか……
いや、何者なのかという事はおろか、自分の名前さえ思い出せなかったのだ。
「いわゆる、記憶喪失という奴みたいだね。
そして、医師に検査してもらった結果、目立った外傷もない健康体の男児という報告が返って来たわけだ。」
ここまでの所に異論はない。
その報告の後で、落ち着くまでこの屋敷に滞在するように言われ、行く当てもないので言葉に甘えて数日過ごしたのだが……
「……そういう訳だから、キミには、領主をやってもらう事になった。
手続きは先ほど終わったから、3日後の叙勲で正式に任命される。」
「だから、なんでそうなるんだっ!?」
分かり切っているここまでの説明を改めて語ってもらったが、その中に俺が領主をやらねばならない要素は何一つ入っていなかったはずだ。
……そもそも、コイツがどれだけえらいか知らないが、身元不明の男に領主を任せるだなんて、いかれてるとしか言いようがない。
記憶喪失なのに、なぜか不思議とそう言う事だけは理解できた。
「わからないかい?」
「あたりまえだろ。」
「どうしても?」
「どこをどうすれば、こんな無茶ぶり理解できると?」
畳みかける様な問いかけに即答すると、ツヴァイクは『ふぅ……』とため息をつき……
「予想はしていたが、重症だなこれは……」
「ちょっと待て! なんで俺がおかしい事になってんの!?」
どう考えたって、おかしいのはそっちの方だろうに……!
だが、ここで目覚めてから今に至るまで、ツヴァイク以外の人間と話した事が無い。
屋敷の手入れをやっているお手伝いさんと思われる子達とは、軽く挨拶した程度だし……
もしかして、あの子達にもこのやり取りを見られたら、おかしいのは俺の方だと思われたりするのだろうか……?
「まぁいい、とりあえず数日間屋敷に籠らせっぱなしだったから、いい加減外に出たくなっただろう?
外出を許可するから、王都を見物してくるといい。
一回りしてくれば、何故君を領主にするかの理由は理解できるだろうから。」
「いったいどうなってるんだっての……」
意図が全く分からず、頭の中がモヤモヤしつづけているが、確かに屋敷の中で閉じこもっているのもなんだかなぁと思っていた所なので、正確な価値は分からないが、それなりの額だと思われる小遣いを握らされ、俺は事態の理解を兼ねて、王都ゼロニアスを見物する事にしたのだった。
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