『蕎麦屋事情』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
男二人が立ち食いそばをすすりながら可決されたばかりの法案について意見交換をしている。
ニュートラル法って言ったっけな。中立な立場にいる人のために作られた法案で、たとえば男でも女でもない人には特別に国からいくらかのお金がおりるらしいね。
それにはニュートラル試験という試験を受けないとダメらしいけど、一応(どちらにも属さない)ことなら一応試験を受ける資格は得られるらしいね。
そういや、俺もニュートラル試験を受けるんだよ。今年。
そう言って男の片割れが取り出したのは受験票だった。
この受験票はな、明日を切り開く幸運のキップだ。
理由を聞くもう一人の男に受験票を持った男は得意げに言った。
「ただの紙が、万札に化けるぞ」
それを聞いていた男は呆れたように言った。
しょうもないね。
男二人は会話をやめ再び残りのそばをすすり始めた。
テレビでは、試験の倍率について、語られている。
アナウンサー『倍率はあの東大の300倍らしいですね』
ニュートラル法専門家『はい。ほぼ大多数が受かりません』
アナウンサー『そんな法律に意味はあるんですかね』
アナウンサーは皮肉るように言う。
『意味はありません。ただ受ける人間がいるから試験があり、それを定める法律があるのです』
店内には、ただそばをすする音だけが聞こえている。
男がテレビを観ながら、言う。
『この一杯350円の蕎麦だって贅沢品だ。僕らにはこんなそばを食う生活がお似合いだよ』
『蕎麦屋事情』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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