第27話 洗礼

「があああーーーー」


 叫びながら剣を持った3人がこちらに向かって走って来る。


 おそらくは地元民で、3人共武装をしている。

 何かしらの用件で町の外に出た時に魔物と遭遇したっぽい。

 どうやらオーク10匹程に追われていて、背後に追手の姿が見える。


 よく見ると1人の背中か肩辺りに矢が刺さっていて、別の1人は頭から血を流している。

 そして最後の1人は腹に傷を負っていたが、よくもまあこれで走れているなと感心した。とてもではないが動き回る事が出来る筈がない傷なのに、感心していたのだ。

 

腹筋に力が入らず、歩くのはともかく、本来走るのは無理だ。


 友安は叫んだ。


「治療してやるから俺の所に来い!」


 ゼツエイとフランカは身構えており、3人を俺の方へと通してから、彼らの背後を守る形でオークと対峙した。 


 俺が怪我の具合を見ようとしたが、3人はいきなり俺に対して剣を振って襲ってきた。咄嗟に左腕で頭を庇ったが、俺の左腕が切断され宙を舞っていく。


 「ぐあああ!何をする!?」


 ミザリアが悲鳴に近い叫びを上げた。


「なんて事を!この者達死人よ!イリア、友安様をお助けしなさい!ミリアは私と友安様に、これ以上敵を近付けないように対処するのです!」


 俺は咄嗟に剣で1人の首を刎ねた。そしてあっという間にイリアが2人を倒す。

 俺はこいつらが何者なのかを確認するのに、スキルスティールを試すが何も取れなかった。元々スキルが無いか、死後30分以上経過していると思われる。ミザリアが死人と叫んでいたから、操られている死人と仮定した。


 切断された直ぐは余り痛くなかったのだが、段々痛みが激しくなってきた。

 イリアが半ば泣いている。


「友安様が!友安様が!ああ、しっかりしてください。私ともあろう者が異変に気が付かなかったとは!」


 俺は座り込んでゼエゼエハァハァと息をし、切断された腕を探していたが、思考能力がまるでなくなっていた。


 そんな俺の状態とは裏腹にオークとの戦闘は苛烈だった。必死にゼツエイとフランカが食い止めてはいるが、数が多く押されている。怪我をした俺が足手纏いになっていたのだ。


 ミザリアが魔法詠唱を始めた。


「森の守人たるミザリアが聖なる慈悲の女神に求む!光を紡ぎ、風の守り手に乞う!風と共に在りし精霊よ!悪しき者より我と我が愛する者を守る力を貸し与え給え!絶対防壁」


 俺は漸く切断された腕を掴んだが、ミザリアさんが俺に触れながら周辺に直径5m程の半円形の魔法の結界?を発動した。凄い!と結界の方なのか、ミザリアさんの方なのか、俺はつい見惚れていた。


 ミザリアが指示を出した。


「友安様は結界にて保護しました。こちらは大丈夫ですから、イリアとミリアはトト様達に加勢しなさい。友安様は私が命に代えてでもお守りしますから!さあお行きなさい!」


 そう言い2人を戦闘に向かわせる。


 きりっとしたミザリアさんは素敵だなあ!等とこんな状況でそんな事をつい思ってしまった。


 イリアがスキルコピーを発動したようで、2人が剣を持って加勢し、程なくして形勢逆転となった。結局20匹近くのオークが居たようだが、そこからはあっという間に倒しきった。


 俺は痙攣を起こしていたが、すぐに収まり皆が駆け寄って来た。血を流し過ぎたようで、己の血溜まりに座り込んでいた。思考が定まらず力が入らない。寒い・・・もう何もできません・・・もう疲れた・・・眠りたい・・・あの人達は誰だろう?意識が混濁し始め、ぐったりした俺を抱えてミリアが叫ぶ。


「腕を切断面に当てて友安様を押さえてください!友安様!ご自身にヒールを!」


 ミザリアが俺の肩を押さえながら俺に向かって叫んでいた。


「いやあ!死なないで!どうか意識をはっきり持って!頑張るのです!ヒールを掛けるのです!貴方になら出来ます!」


 俺は情けなく泣いていた。


「痛い!痛いよ。何で俺がこんな目に合わなきゃなんだよ。腕が失くなったよ。痛いよ。痛いよ。家に帰りたい。お米が食べたいよ。うぐぐぐ。もう嫌だ!くううう。母ちゃん!痛いよう!助けてえ!嫌だよう!」


 ミザリアが俺をたくしあげ、いきなり頬にビンタを食らわせた。


「しっかりなさい。男でしょ!私の夫になるのではなかったのですか!?世界一強くなると約束したでしょ!私が好きな貴方になら出来る筈です!しっかりしなさい!」


 俺は一瞬だけだがはっとなり、腕ぇええぇ!くっ付けよ!と思いつつヒールを使うと、急激に痛みが引き、左腕が接合されたのが分かる。そして腕に感覚が戻って来たのであった。

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