第14話 絡まれた

 俺達はそそくさと食堂に繰り出して行き、テーブルを確保した。何を頼むのかについては、俺はメニューが読めないからと、2人にお任せにした。

 注文後やはり絡まれたのだが、俺が手を洗う為に離席している時を見計らったかのように絡まれたのだ。


「ようねえちゃん達!さっきはよくも恥をかかせてくれたな!お仕置きが必要だな!?さあこっちへ来いよ!」


 いきなりイリアの手を掴み、強引に引っ張ったものだから、彼女は椅子から転げて床に体を打ち付けた。


 「キャー!痛い!」


 イリアの悲鳴に俺は大いに怒った。


 「俺の女に何をする!」


 思わず叫び一気に駆け、そいつの背後に回り、腕を捻り上げてテーブルに押し付ける。勿論スキルは全て没収だ。


「イリア大丈夫か?ミリア見てあげてくれ。おい、お前!さっきは我慢したが、流石に俺の女が怪我をさせられてはもう黙ってはいられんぞ!」


「糞があ!いててて離しやがれ!」


 そいつの仲間が剣を抜いた。俺は咄嗟に10発程のファイヤーボールを俺の周りに展開した。すると周りが騒然となった。ファイヤーボールを見てそいつらは腰を抜かし、床に尻餅を着き、後ずさりながら「ヒィー」とか「うあぁあ!」と唸っていた。


 誰かが俺の肩にそっと手を置いた。俺とほぼ一緒の身長?いや、僅かに低いな?その人は綺麗な若いエルフの女性だ。


「お兄さん?もうその辺でやめてあげられませんか?もうあの者達の戦意は無くなりましてよ」


 連れのドワーフのおっさんが呆れていた。


 「兄さんや、ちと過剰戦力じゃし過剰な反応じゃて。お前さん達、この兄さんが本気であれを放ったら一瞬で消し炭じゃぞ。相手を見て喧嘩を売らぬと早死にするぞ」


 「ヒィーだじげでー!」


 叫びながら出ていった。


 俺は魔法をキャンセルした。


「イリア大丈夫か?今ヒールを掛けるからな。どこのどなたかは存じ上げませんが、止めて頂きありがとうございました!」


「ほう、お兄さんは2属性持ちなのですね。火と聖とは珍しい組み合わせですわね。そう思いません事?爺や?」


「誰がじじいだ!まだ60代じゃぞ。お主こそ40歳近いおばはんだろうに」


「ふふふ。エルフの女の子の40歳はヒューマンの18歳位よ。いつも言っているでしょ!?」


 イリアが自分の体を確かめて大丈夫をアピールし、2人に礼を述べた。


「エルフにドワーフとは珍しい組み合わせですわね。我が主の暴走を抑えて頂きありがとうございました!」


「ふふふ、貴女可愛らしいわね。私と違い大事にされているのね。羨ましいわ」


「儂がおぬしをぞんざいに扱っとると周りが誤解するだろうが!全く口の悪さは治らぬのぉ。どこで育て方を間違えたのやら」


「あのう?良かったら取り敢えず席に着いて一緒にお昼を食べませんか?」


「そうですわね。私はともかく、この爺やは先程から腹が減ったぞ!早く飯だ!と喚いておりましたの。相席宜しくて?」


「はい!お願いします。お姉さま!」


 イリアが急に懐いていた。


「申し遅れました。友安と申します。先程暴行を受けた方がイリアで、こちらが妹のミリアです。私達は初心者講習に参加していますが、貴女達は?あと失礼ですがお2人はどういった間柄で?私はドワーフもエルフも初めて見るのですが、エルフとドワーフという組み合わせはよくあるのですか?」


 ミリアの様子がおかしかったが、この時は人見知りかな程度と余り気にしていなかった。


「わたくしはサイファスの娘ミザリアで、この爺やはサイファスの友にして、一応わたくしの師匠たるディグラスの息子ゼツエイですわ。宜しくね」


「何が一応じゃ。ぬしのおしめを誰が替えてやったと思っとるんじゃ」


「腐れ縁でしてね、亡き父に代わり私を育ててくれましたの。そう父親代わりなのですわ。それで異種族ではありますが一緒に旅をしておりますの。それとこの2人は奴隷ですわね?でも友安様はそうは扱っていないように見受けられますわね」


「なぜそう思われるのですか?」


「まあそう警戒なさらないで。イリアちゃんが我が主と言ったのですわ。貴方は自分の女だと言いましたけれども、ピンと来たのですわ。でも大事にしているのは分かるわ」


「はい、友安様は私達を奴隷として扱わず、1人の人として見てくださいます。そ、それと私達の体をお求めにならないのです。愛がなきゃ嫌だって。申し遅れました。ミリアと申します」


「貴女達はやはり奴隷なのね。ひょっとして友安様は衆道の気があるのか、不能なのですか?」


 俺は飲みかけの水をブーっと吹き出し、イリアに掛けてしまったのであった。

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