第33話南極




何故こんなに寒い思いをしなくてはならないんだ。

足先は冷えて、手の指の感覚も太くなったような感覚が続いている。

一寸先が見えない程の吹雪で、クレバスに落ちないように、足元を確認しながらの走行も大変だ。


せっかくの犬ゾリも役にたたない。

犬ゾリを引いているのは、ブラックとダークだ。

あいつらも吹雪の中に入ってから、一言も話して来ない。


それに俺の炎の障壁が無ければ、絶対に凍死していたはずだ。




なんでも南極の異変は、1週間前からだと聞いている。

温度が急激に変わることが、始めに報告されていた。


そして南極に棲むアザラシやペンギンを見かけ無くなっていた。


それなのに、何処からか獣の鳴き声が聞こえてくるらしい。

それはものさびしい声だと、聞いた者は必ず証言していた。


そして3日前から、南極の基地からの連絡が途絶えた。

1つの基地なら故障だと考えられるが、全ての基地の通信が途絶えた。

まさに異常事態だ。


そして、向かっている先は、ドームふじ基地だ。

そこで事情を聞いてから、事を起こす予定だった。

その予定が、始めから崩れてしまった。



今の時期は、夏季だと聞いたのに、来て1日目でこんな目にあっている。

もう吹雪になって2日目だ。


腕時計は、すでに21時を過ぎている。

白夜だとうっかり忘れていた。


「ブラックとダーク、もうここで寝るぞ。こっちに来い」


『主、魔石に戻してくれ』


『そうだ、戻してほしい。お願いだ』


「俺1人で寝ろと言うのか? この薄情者はくじょうものが」


『それなら、ドラ丸を召喚すればいい。奴はドラゴンだけに熱い奴だから・・・』


「成る程な、それはいい考えだ」


魔石を取り出して、召喚!


『なんか涼しいな・・・あ!主殿、なにかあり申したかな・・・』


「今から寝るから、見張り番をしてくれ」


『分かり申した』


そう言うと翼を広げて包み込んでくれた。

あ、なんだか温かい。


『ああ、気持ちいい温かさだ』


『これなら寝るのも苦にならないぞ』


こいつらは現金な奴らだ。

俺もなんだか眠たくなってきた・・・・・・





目覚めると、吹雪が嘘のようにやんでいる。


『主殿お目覚めかな、あっちの方から不穏ふおんな気配がします』


「案内できるか?」


『もちろん』


「ブラックとダーク!おきろ、出発するぞ」


『魔石をもう1つください』


「ブラック!なに寝ぼけてるんだ。おきろ!」


俺たちは、ドラ丸の背に乗って飛び立った。

高い位置で、ようやく俺ら進んだ距離が見えた。

チェ!あまりにも進んでいない。あの苦労はなんなんだ。



ああ、アプリの表示だと南極点に向かっている。

なんだか探検家になった気分だ。


『あれです』


え!なんと、1つの胴体に頭が8つも生えたヒドラタイプがいた。

頭が8つ・・・それなら、ヤマタノオロチにそっくりだ。



どうも奴もこっちに気付いた。


「ドラ丸、後は任せた」


そう言って、俺らは飛び降りた。

風魔法を使ってゆっくりと降下。


ブラックとダークは慣れているので、すでに氷の上に着地していた。


ドラ丸がヤマタノオロチにおおいかぶさった。

近距離からブレスを仕掛けた。


なんと一息で4つの頭を燃やし尽くした。

そのまま残りの頭に向いて燃やし尽くした。


なんとドラ丸はめちゃくちゃ強い奴に成長してしまった。

まさかヤマタノオロチが弱いわけがない・・・


『なんだ、もう終わったのか・・・つまらん』


『参加も出来なかったぞ。けしからん』


もうこいつらは、勝手な事を言っている。




「せっかくだから、南極点はどこだ。こっちか・・・ばんざーい、ばんざーい、南極点だーー」


なにやらしらけた目で見ている奴がいる。


「お前らには、分からないんだ。この感動が」


『全然分かりませんな』


『そこになにかあるのですか、主』


口にださなくていいのに・・・

とりあえず、今回の任務は終わった。


『主殿、魔石です』


「ドラ丸、凄い活躍だったぞ。今後も頼むぞ」


なんだか感動したように、あおぎ見ている。




ヤマタノオロチが討伐されたことで、南極基地の通信障害はおさまったようだ。

今となっては、ヤマタノオロチにどんな能力があったのか分からない。


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