第31話老木




あれ!レベルアップしたことで、更に奥深い山奥に怪物の気配がした。

ただ事では無い気配だ。


ダンジョンに入る前は、何も感じなかったのに、やはりレベルアップのせいだろう。


「皆!頑張って行くぞ」


あれ、召喚獣の反応が薄い。


「怪物を倒しに行くぞ、もっと気合を入れろ」


『え!そんな怪物がどこに・・・本当にいるのですか?』


キラが疑うような目で、首を傾けて見てくる。


「ああ、居るぞ。デカく、おぞましい気配が感じるぞ」




そんな信じていない召喚獣を連れて、山奥へ目指した。

ああ、アインが元気だ。

前までのアインなら進めない程の傾斜を、アインは快適な足取りでジャンプしながら進んでいた。

そして遅れる俺の方を見ては『はやく来ないのか』と思っているに違いない。


「バサバサバサ」と俺が示した方向からキラたちが戻って来た。


あるじ、なにもいません。皆も見なかったよなーー』


『見ませんよ』


『何も居ません。本当です』


なんだか、俺1人が嘘を言っているみたいだぞ。




気配を頼りに進んで、ようやく目的地までこれた。多分、あれがそうだ。


「ヨシ!いよいよ本番だ」


なにやら急にうすい霧がただよってきた。

森の木々の間を、視界をさえぎるようにして惑わせている。

間違いなく奴の仕業だ。俺に気付きしたことだと思う。


「あれ!召喚獣は気づかないのか? この幻影に・・・」


『え!なにか感じるのですか?』


召喚獣をだますとは・・・相当にヤバい奴かも知れないぞ。




ああ!見えてきた。

禍々まがまがしい気配が、あふれ出している。




俺は巨大な炎の球を作り出すと、奴に向かって放った。


巨大な老木から何かが展開して、炎の球が急に空中で止まり包み込んで消えてしまった。

それでやっと気づいた召喚獣たち。


老木には、葉が一切なく枯れたような枝が生えているだけだった。



『恥ずかしいです、ご主人さま』それはザザの悲痛な言葉だった。


『おまえ、どこに隠れていたんだーーこの野郎が』


ののしっていたのは、キラだった。





『フフフフ、元気な奴もいたもんだ。それにしても、よくもわたしの正体を見破ったな。絶対に許さん』


なんと、奴は日本語をしゃべっている。

あ、違った俺の脳に直接話していた。


「手加減するな、奴を倒せ!」


『分かってますよ、主』


空高くに広がったキラたちは、魔法攻撃を老木に喰らわしていた。


魔法攻撃が集中したポイントに、例の方法で老木は防いでいた。

大爆発を防がれた。


そして枝を振って来た。

その枝からツルが一気に生えて、ムチのように叩き落そうとしている。

間一髪でキラはかわしている。


そして空に向かって無数のツルが襲い掛かる。

「ビシ、ビュウ、ビシ」とツルの攻撃が連続で襲いまない。

キラは、そんなツルを斬激ざんげきで粉々に粉砕ふんさいしている。


タイミングよく俺の炎の球が命中して、燃え広がった。

瞬く間に燃え広がり半数のツルと枝を燃やし尽くした。

なんだ、燃やしたばかりの枝がみるみると再生して復活している。

再生して復活すつなんて・・・


ザザの攻撃は相性が悪いのか、少しだけのダメージしか与えられないでいる。


「ザザは、周りを警戒けいかいしてくれ」


『申しわけない、ご主人様』


「仕方ない、こんな場合もあるよ」


それにしても何故だ。俺は疑問に思った。

俺は鑑定をし続けて、ようやく理解した。

地中からマナを吸い取って、復活していたんだ。

地中にはマナが豊富に流れている。

鑑定でしっかりとマナ地脈が見えていた。


老木の真下にマナ地脈がながれていた。そして老木の根が張り巡らされていた。




「アイン、巨大化して奴を地中から引っこ抜け!」


俺の言葉に従って、徐々に巨大になったアインは、老木に抱きつき必死に引き抜いている。

急に老木は、がむしゃらにアインを攻撃するようになった。

あの魔法攻撃をしないで、本能的な物理攻撃の連続だ。

この作戦に間違いないことを確信した。


「アイン!頑張って引っこ抜けーー」


アインを守るように、キラたちは魔法攻撃で枝を攻撃し続けた。

それでも枝は新たに生えて、攻撃を繰り返していた。


『やめてくれーー!! 抜くなーー!』


老木の声が脳内を木霊こだまするように響いた。

なんなんだ、この痛みのこもった声は・・・


アインは前後に揺すっている。

「ドサーーァーー」老木が引き抜かれた瞬間だった。

そして急に老木はち果てて、消えてしまった。

何が起きたのか分からなかった。


そして我に返った。

老木は討伐された。戦いはかった。


「アイン、でかした。皆も頑張ったぞ」


『頑張ったよ。ほめて、ほめて』キラが、俺の頭上で飛び回って叫んでいた。


「ああ、偉いぞ」


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