挿話 新たな恋?①

 うーんうーんと熱で寝込んでいるひかりは夢を見ていた。

 相手は先日の先代南区担当(当日は中央区を担当していた)の魔法少女である。

 まるで少女漫画の様に目がキラキラした彼女に迫られ「私には夫がっ」とか言ってる自分をで見ていた。


 最早、テレビで昼メロを見ている気分である。

 そんなシーンを見て顔を赤らめながら「私はそんな事はしない!」と抗議をするひかりだが、夢は無情にもベッドシーンに進展してしまう。

 彼女の裸体は見た事がないからか白いもやで隠れているのは、まるで昔読んだ少年漫画のエッチシーンを彷彿とした。

 その為か逆に我に返り『どうせ夢なのだ』と達観した所で目が覚めた。


「暑い!!!」


 これが寝起きの第一声だった。


「おはよ、眠り姫さん。今日は体拭かなくて大丈夫そうね」

「休みだからって眠りすぎたね、今何時?」

「昼前よ、といっても3日間寝込んでたのよ」


 その言葉にひかりは固まった。


「えっと、3日間?貴重な夏休みを??なんて酷い!!」

「ご愁傷様。あれから大変だったわよ、でも守ってくれてありがとうね」

「んーん、守ったのは衣千香いちかちゃんだよ。それで何が大変だったの?」

「夕飯の支度よ。毎日集まるのにすぐ食材尽きるわ、みんな後片付けしないで看病したがったり、体を拭きたいって言い出したり。あと……はやて君が迫って来たり……」


 トラウマの元となったはやてに迫られるなんて何の悪い冗談かとひかりは思った。

 そもそもはやて美緒みおと付き合っているハズだ、なのにどうして心乃葉このはに?


心乃葉このはちゃんはどうしたいの?」

「ちゃんとお断りしたよ。美緒みおちゃんがいるでしょって。でも、美緒みおちゃんはひかりちゃんの事が好きだからっていうのよ。それは私だって同じだって言ったわよ。でも、どちらもひかりの事が好きなら、自分も好きに選んでいいハズだっていうのよ」

「──……う、うん?ごめん意味分からなかった」

「ごめんなさい、私も半分くらいしか分かってないかも」

「じゃあ、同一人物という事は知られて無いの?」

「うん、それは大丈夫みたい。あれもパパの記憶操作だから……」

麻月まつきさんって何者なの……」


 すーっと目の光が消える心乃葉このはひかりは反射的にビクリと反応する。

 何か聞いてはいけない事を聞いてしまった事を直感的に感じてしまった。


「パパはパパだよ?」


 その一言に酷い悪寒を感じ、思わず心乃葉このはを見つめ?と思ってしまった。


「どうしたの?なんだか怖いわよ」

「ううん、なんでもない」


 元に戻ったのか、そもそも気のせいだったのか判断つかないひかりは、とある不安を胸に抱く。


心乃葉このはちゃんも記憶操作されている?』


 流石に行き過ぎだと、その思考をすぐに取りやめた。

 そんな事よりもどんなことよりも、あの魔法少女の方が気になる。


心乃葉このはちゃん、この間の塾に最後の方に来た人って誰か知ってる?」

「知ってるも何も……」

「私の事かな?ひかりちゃん」


 何故か当人が部屋に入っていた。

 心乃葉このはばかりに気を取られていて、他に誰かいるなんて思いもよらなかった。

 唐突に現れたその魔法少女の名は『とどろき惺心せいな』。マジカルネームを『マジカル・プリンス』という。


「よろしくね、ひかりちゃん、ひかりちゃん、ひかりちゃん(脳内エコー)」

「よよよ、よろしくお願いしますぅ」


 これは実際憧れが入り混じった心境につり橋効果が付加され、恋心に近い感情だった。

 得てして恋なんてものはそういう切っ掛けから生まれたりするが、“かっこいい”相手に対しての一目惚れの様な感覚は初めてであった。

 それはまるで、男子に対して恋するような感覚だと自覚していた。

 だからこそ、混乱する。

 男性に対する恋愛の感情を持つこと自体が異常だと信じたいからだ。

 だが、その感情とは裏腹に、発する言葉にはその一端が見て取れた。


惺心せいな様」


 ひかりのその一言に心乃葉このはに動揺した。

 どういう心境か理解できなかったのだ。

 そして察してしまった。新たな恋に。

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