挿話 新たな恋?②

 夢の事を思い出し、ひかりは異常なほどに緊張していた。

 話もしどろもどろ、発汗も尋常じゃない、手汗もちょっと引くレベルにかいていた。


「まだ、熱があるんじゃないか?」

「ははははは、そーですねー」


 そうして、再びベッドに横になるのだが、惺心せいなからおでこに手を当てられ熱を確認される。

 彼女に触られた事でさらに熱が上がったのは言うまでもない。

 更にその状況を心乃葉このはは面白くないと感じていた。


惺心せいなさん、ここは私が看病しますから、出て行ってください」

「うん?そうかい?じゃあまた来るよ、またね、ひかりちゃん」


 出て行くのを見てひかりは少し落ち着いた。

 その反面、心乃葉このはは深いため息をつく。


ひかりちゃん、惺心せいなさんの事、好きになっちゃったでしょ」

「え?どうしてわかるの!?」

「見ててバレバレだから」

「うぅ……」

「というか、まぁ、あの人、アイドルみたいなものだから」

「アイドル?」

「そうよ、あの人魔法少女に変身して、芸能活動してるのよ」

「んと……、男として?女として?」

「男として、というか、男装ね。バレバレだからみんな気づいてるけど、それを言わないのがファンの中でのルールになってるわ」

「ほへー」

「ちなみに、『マジカル・プリンス』って名前よ、マジカルネームそのまま」


 ひかりは少し混乱していた。


 魔法少女が変身して男装して芸能活動?しかもマジカルネームそのまま?

 変身って気づかれにくくなるんじゃなかったっけ?


 その通りであったが、その機能、自在にオンオフできるのだ。

 そして、その機能こそが芸能人としての活動を便利に活用できるのだ。

 変身を解いてしまえば、ファンにもバレないので安定した生活が送れる。

 変身したままでも、その機能を有効にすればファンを撒けるのでいいこと尽くめだ。


 結局、自分の感情をアイドルに憧れる感情だとして処理してしまい。

 これは恋じゃないと考えた。


 そして夢の事が酷く気になっていた。

 内容ではなく状態にだ。


「ねぇ、夢を第三者視点で見る事ってある?」

「あるわね。上手く制御すれば過去の記憶なんか掘り起こせるわよ。これも魔法少女の能力の一つ『マジカル・リプレイ』って呼ばれてるわ」

「へぇ~」

「まぁ、あれよ。夢の当事者になって変に魔法使っちゃう事のない様にする防衛機能の一つよ」

「寝ぼけて使っちゃう人がいるんだ」

「というか、過去に洗脳された人がそうだったみたいね」


 洗脳された魔法少女、それは魔法少女の死を体験した最初の事件。

 その事で、ようやく優々菜ゆゆなの事を思い出した。

 自身が殺した後輩の魔法少女。

 ひかりはズキリとする胸の痛みに『忘れたい』という感情と『一生忘れてはいけない』という感情が同時に発生する。

 天使と悪魔が心の中で喧嘩しているようなものだ。

 片やあれは仕方がない事だと自身を慰め、片やあれはやり過ぎだと自身を責め続ける。


ひかりお姉さまが起きたって本当ですか!?」


 唐突に部屋に入って来た衣千香いちかが私の顔をみて安心する。


「起きてよかった。本当によかったです。あの時はありがとうございました」

「あの時?」

優々菜ゆゆなに殺されそうになった時です。あのままだと私は死んでいました」

「そっか。私は一人、救う事ができたんだね」

「そうですよ?ひかりお姉さまは凄いんです!私を二度も助けてくれたのですよ!」

「あはは、言い過ぎだよ」

「あれ、ひかりお姉さま?」


 その時、何故か流れる涙に、自身の行いが正しいと言われた気がした。

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