第43話 夏期講習からの罠④

 優々菜ゆゆな心乃葉このはに向かう殺意を発した時、ひかり心乃葉このはの危機を直感していた。

 咄嗟に地下に行けるルートは無いと判断し、信徒に道を開けてもらい、マジカル・ウィングをつかって窓から出て屋上に移動した。

 そこでマジカル・サーチを使い人の動向やごうの声に耳を傾けたのだ。

 そして特大のごうの声の持ち主は恐れいた通り優々菜ゆゆなで、その時点で変な場所に居る様に思えた。この時は既に衣千香いちかのマジカル・イクウカンに居た訳だ。

 ひかりにとってごうに乗せた声というの、物理的ではなく感覚的に位置まで分かるようになっていたのだ。

 多少なりと可愛い後輩だと思っていた相手を殺す事は忍び無い。

 だが、殺意の対象が心乃葉このはである事から情けは微塵もなく消え失せていたのだ。


 ひかりの放った弾丸は壁をすり抜け、マジカル・イクウカンに侵入し対象だけを撃ち抜いた。

 ひかりはどうしてそんな事ができたのかは自覚がない。

 ただ、排除しなくてはならないという思考がそうさせたのだった。

 だが、心臓を抜いてもまだ生きていた事に二発目の弾丸を放った。

 それはまるで、流れ作業をするかの様に感情を押し殺した職人の様な表情であった。


 衣千香いちかは依々木塾の屋上に空間を繋ぎ、優々菜ゆゆなを降ろす。

 そこには銃口から煙が出るマジカル・スナイパーライフルを構えていたひかりが立っていた。

 ※説明しよう、銃口から出るのは魔力の粒子で実際は煙ではないぞ。

 

 優々菜ゆゆなの姿は見るも無残だったが、ひかりはそれを気にも留めず衣千香いちかの事を心配した、それはそうだろう、死んだものより生きた者の方が優先である。しかも腹部が抉れ腸が覗き見えていたのだから、人間であれば大丈夫な訳がない。


衣千香いちかちゃん、大丈夫?」

ひかりお姉さま……、ごめんなさい、生意気な事を言ってごめんなさい!」


 ひかりの腕の中で泣き出した衣千香いちかに、ひかりは優しい言葉を紡いだ。


「ううん、ありがとうって言わせて。私じゃ心乃葉このはちゃんを守れなかったから」

「でも、これからの事に私は協力できそうには……」

「大丈夫、無理に話さないで、衣千香いちかちゃんはそこで安静にしててよ。ちょっと忙しくなるけど、きっと大丈夫」

「でも!あの時ですら──」


 口元を人差し指で優しく押さえ、もう話すなと暗に命令する。

 そう、これから忙しくなるのだから、衣千香いちかに構ってる余裕は微塵たりとも無くなるのだ。


 そして、依々木塾のビルは突如揺れ始める。

 屋上への出入り口のドアがゴンッゴンッと音を鳴らし変形し、ひしゃげてゆくのをみてひかりは武器をマジカル・アサルトライフルに持ち換え連射モードに切り替えた。

 更にマジカルサーチを唱えとドアの向こう側に見えるは禍堕まがおちになり損ねた複数の業泥ごうでいが視え、その中に辛うじて取り込まれていない心乃葉このはの姿を確認した。

 ひかりはマジカル・アサルトライフルを構え、ドアが開くのを待った。


 『ガコッ』という音で倒れるドアから複数の業泥ごうでい優々菜ゆゆなだった物に襲い掛かろうとした所を、ひかりのマジカル・アサルトライフルが捕らえる。

 連続した微かな射撃音と共に全ての業核ごうかくを次々と撃ち抜く、それに合わせて徐々に飛び散る業血ごうけつが次々と壁にへばりつく。一分も続いた射撃音が鳴りやむと、未浄化の業泥ごうでい床に散らばり、取り込まれかけていた心乃葉このはが元気そう現れた。


「さすがに、当たらなくても標的になった気分でちょっと背筋が凍る思いね」


 心乃葉このはの体を通り抜けた弾は何発かあったが、心乃葉このはには全くダメージが入っていない。

 だとしても撃たれるのは気持ちいいものではないのだが、助かったのも事実だ。


心乃葉このはちゃん、休んでる暇はないよ、アレを守れる?」

「任せて、衣千香いちかちゃんも一緒に守るわ!」


 壁に飛び散った業血ごうけつを舐めて浄化しつつ、新たな戦いに向けて備える二人だった。

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