第39話 どうして?からの憶測

▼今回、設定解説回ですが、倫理観がぶっ飛んでいます。

 読まれる方は心してください。

 非人道的な事が苦手な方は★から★までの読み飛ばしを推奨します。

──────────────────────────────────


 プール帰りのひかりは唐突に視界が暗転した。

 どこかで見た事がある光景だと気づくのに数秒の時間を要した。


衣千香いちかちゃん、普通に声をかけてくれたらいいのに」

ひかりお姉さま、少しお話があります」

「どうしたの、畏まって」

「ナデシコの事です。どうして殺す事になるんですか」


 至って真面目な話だった。

 確かに外で話せる内容ではない。

 普通の正義感であれば、人に害をなすなら説得して更生させればいいとでも言うのだろう。

 実際に既に何人も殺しているのだから既に問題ではあるのだが、ひかりの沸点はそこにはなかった。


「だって、心乃葉このはちゃんを殺そうとしたんだよ。それは許せる話じゃないよ」

「それはそうだけど!だけど魔法少女は一人につき一人にしか力を与えられない……これで南区の魔法少女は途絶える事に……」

「それね、他にも方法が有るハズだよ」

「え?」

「だって考えてみて、それだったら魔法少女はどうやって増殖するの?今、少なくとも各地区ごとに1系統の魔法少女がいるでしょ、最初から5人居たと思う?その5人はどうやって生まれたの?答えこそ知らないけど、必ず増やす方法がある筈よ、例えばさ、魔法少女が女児を身籠るとかね」

「!?」


 すべてはひかりの妄想だったが、それはすべて事実だった。

 ひかりは法律で魔法少女が年齢問わず結婚できる事に疑問を抱いていた。

 肉体に年齢という概念が無くなるからだと思っていたが、それであれば学校に行く必要はない。

 学校に行く必要があるのなら、卒業まで待つことを明文化するべきなのだ。


 ではどうしてそれをしないのか。

 日本が、いや、世界中が魔法少女を増やそうとしていたからに他ならない。

 特殊な技術は必要がなく、発展途上国でも魔法武器が無くても超人的な力を発揮する魔法少女は兵器として魅力的だった。

 一方、その運用には多大なコスト(食費)が必要とされる為、食料難にある国には適さない。

 例えば人口が増えすぎた東亜細亜帝国や南アフリカ大陸共和国なんかがそれに当たる。


 更には対象人材の適正だ。

 今回の優々菜ゆゆなの様に一般の常識がかけ離れた殺人衝動を持っている人物等、モラルに欠けた者を魔法少女にさせない事が重要となっている。嘘に凝り固まれた人材に対して、それを見抜く選定眼が重要なのだ。

 某国ではそれが上手く運用できず、偽りだらけの人材を魔法少女にしたが為に首都が壊滅したという話がある程だ。

 そこが足枷となっているのが現実である。


 少し脱線するが実はそこに目を付けたのがソヴィレント、今は存在しない北の大国だ。

 かの国は魔法少女の量産に着手していた。

 簡単に言えばロボトミー手術で体の自由を奪い、無理矢理に子どもを産ませ続けたのだ。

 そこまでならまだ良かった。(いや、倫理的にはこの時点でかなり良く無い)

 生まれてすぐ死んだ魔法少女の幼体をそのまま兵器転用しようとした。

 それが世に言う『試験管の中の魔法幼女マジカル・ホムンクルス』だ。

 それは最終魔力兵器として仕上げる一歩手前で、それが暴走を起こした。


 ついでに失敗例をもう一つ上げよう。

 東亜細亜帝国は臓器売買が盛んだった。魔法少女が体組織の再生が異常に早い事に目を付けて魔法少女の臓器を取り出したのだ。

 生命維持さえ完璧であれば徐々に臓器は復元されて時間こそかかるが元通りになる。そして、それを人間に移植したのだ。

 そこまでならまだ良かった。(いや、倫理的にはこの時点でかなり良く無い)

 そうして臓器移植した者からも中途半端な魔法少女が生まれたのだ。

 その者達は総じて短命で、10歳になる前に死んだとされている。

 だが、その死に際に魔法少女が死ぬ時と同じ災害が発生した、それも何故か連鎖的にだ。

 広大な国土の各地で起こる魔力災害、所謂『魔法少女連鎖爆死マジカル・チェイン・ショック』だ。


 以上の二つが、二大魔法少女災害マジカル・ディザスターと呼ばれているが、各国でトップシークレットとされている情報なので、ひかり達が知る由も無い。


「だから、長期的に見れば問題ないハズよ」

「それ根拠はあるのですか」

「今はないよ、でも魔法少女の始末は魔法少女がつけるのがこの町のルールなんだから、そう的外れでもないはず」

「それでも……私は納得できません!私が……私が、どちらも守ります!」


 その言葉と同時に、ひかりは元の世界に返された。

 “お姉さま”と慕ってくれているのに、味方になってくれない事に哀愁を感じるひかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る