閑話 プール回②

 8月に入ろうかというある日、耀人あきとひかりをプールに誘った。

 具体的には『プール回①』の二日後である。


 耀人あきとはこの所、夕食時に来ない事が時々あった、ひかりはそれを実伶カノジョと過ごしているのだと思って気にしない事にしていた。それに今日も実伶カノジョが来るものだと勘違いしていたのだ。


 さらには連続のプールという事に難色を示しそうになったひかりだが、手加減して人並みに泳ぐ事ができるようになったのだから、それを確認して泳ぐのもアリかと考えた。

 今度は脱げないようホルターネックのワイヤービキニの水着にして気を配った。

 少なくともトップがが脱げる事は無いだろうと安心していた。


 心乃葉このはと一緒の時であれば、魔法少女優待で入れる所に行くのだが、一般人と一緒の場合はそうもいかない。

 そこで行き先はリラクゼーションリゾートに決まった。だが、ここには問題があった。

 人が多すぎたのだ。 


 中学生が背伸びしなくても入れるレベルの施設なだけに、学生よりも家族連れの方が多い様に見受けられたのだがとにかく人が多すぎて眩暈がしてくる。心乃葉このはが行先を聞いて行きたがらなかった訳も分かるというものだ。


耀人あきとさん、おまたせしました。髪を纏めるのに時間かかっちゃって」

「みみみみ、水着に合ってるね」


 耀人あきとの目線は胸に釘付けだった。

 ホルターネックはバストアップ効果があるので仕方がない事だが、そこに動揺する様ではまだお子様である。

 だが、ひかりはこれを恥ずかしがるという事もなく堂々としている所がまた胸をさらに大きく見せていたのだ。


 ある意味、ひかりには女性としての羞恥心と警戒心という物が欠けていた。

 以前ラブホテルで服を破られた時もそうだったが、女の子であれば「きゃあ」の一つくらい言いそうな所を毅然とした態度で乗り切れたのだ。

 その根本となっているのは元の性別が影響しているのだろう。恐らくはTPOレベルの羞恥心しか持っていないのだ。

 実際、恥じる様な外見や大きさでもないのだからそれがプロポーションを自信しているようにも見えた。そうなると周りの目も釘付けである。


「とりあえず、どうしようか」

「飛び込めないね、本気で泳げそうには無いから、プカプカ浮かんでるだけになりそう」

「それなら、スパの方に行かない?」


 ここのプールは温泉付きだった。

 水着で入れる温泉は夏場だけにプール程には混んでいなかった。

 それこそ個室も取れる程だ。

 そこに目を付ける耀人あきとはやはり男だった。


 個室に二人きりで露天風呂といった贅沢感に感じでゆっくり浸かる二人。

 最初にひかりが感想を口にした。


「こういうゆっくりできるのも良いよね。あ、私だけで良かったの?実伶カノジョと一緒じゃなくて」

「言ってなかったっけ?ラブホで悪人退治した後、別れたよ」

「そっか~、じゃあ相手が人妻でごめんねって言っとくべきなのかな?」

「というか恋愛は自由なんだろ?気にするなよ。俺は諦めてはないけど手を出す気は無いから安心して」


 少し紅潮した耀人あきとが恥ずかしそうにしているのを見て、ひかりが抱き着いてからかった。

 胸を押し当て「じゃあ、こんな事しても興奮しないんだね~」なんて口にする。


「ごめん、無理。興奮する。メッチャ興奮する!でも俺は自分の彼女にしか手を出さない事に決めたんだっ、だから絶対何もしない!」


 そして、最後の言葉は小さな声だった。


「あと、勃つのは見逃して……」

「あ…………ごめん」


 こうして暫くの間、二人の間に過激な行動は無くなった。

 それが良かったのか悪かったのか、ひかりにとっての初めては当分来ない様だ。

 結局、自身が魅力的であると言う事は確認できたので、満足したひかりだった。

 そして、これまでの行いが恥ずかしくなってきたのか、耀人あきとの顔を直視できなくなっていた。

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