第36話 日常の再建、からの長い二日間⑩

 男はまるで胸を弄ぶかの様にブラひもを引っ張り胸を揺らした。

 少しでも誘惑しやすいように肩が出る服は失敗だったかと少し思った。

 そんな事をされながらひかりは男が置いた耀人あきとが映っているスマホの背景を確認していた。


「通話先も、このホテルですか?」

「ん?まぁそうだが?」


 ひかりは小声で『マジカル・サーチ』と唱える、昼間っからのホテルの利用者はさほど多く無かった。

 しかも、耀人あきとを捕まえているのは二人組だった。

 1室3人入っている所を探すと、斜め下の方向に三人組が居る事に気付く。

 そんな事をしてるとは知らない男が舌なめずりをしながら近づいて来た。


「じゃあちょっと脱いでみようか、小柄なのに胸おっきいよね、揉まれ慣れてる?」

「自分で脱ぐので少しあっち向いててもらえますか」

「ん~?、ああいいよ」


 男が振り向いた事を確認して、三人組が居る方向に集中して再度『マジカル・サーチ』を唱えた。

 体の大きさから、耀人あきとの特定をした所でヘアピンを取った。その時、通話中スマホの方から「むー!むー!」と切羽詰まった声がした。

 ひかりが振り向くよりも先に男の手が服を掴み一気に破いた。

 ワンピースだったせいで一瞬で下着姿になってしまったのだが、それも構わずヘアピンを銃に変えて2人に向かって撃ち込んだ。

 まだ小さいながらも業核ごうかくが出来ていた為、狙いやすかったのだ。

 通話中スマホから「ぐあ!」という声が二つ聞こえると同時に、男が襲い掛かって来た。

 それが背後から襲われたからといって、魔法少女が負ける訳がない。

 ひかりは自身の恰好には気にも留めず、男に顔面に拳を叩き込んだ!


「ぶふぇふぉ!」


 鼻血が飛び散り、後に倒れそうな所をそのままアッパーカットを叩き込むと男は壁に激突した。そして『マジカル・サーチ』で業核ごうかくを探すがこの男にはどこにも無かった。

 それは純粋悪とでも言うのだろうか。

 後ろめたさが全くない、ということに他ならない。


 仕方なく、というべきか。

 純粋悪という事への苛立ちか、ひかりは男に馬乗りになり、無言で顔面を殴り続ける。

 男がぐったりと力を失ったあたりで我に返り、手を止めた。

 死んでいないか確認するが残念ながら、男は意識を失いながらもどうにか息をしていた。


ひかり!」


 猿ぐつわを自力で外した耀人あきとが心配そうに叫んでいた。

 涙を流して、それはもう酷い顔になりながら、無事である事に「よかった、よかった」と繰り返す。

 それから耀人あきとのいる部屋の番号を教えて貰い、ひかりはシーツを身に纏って、その部屋に移動した。

 マジカル・アンロックで鍵を開けて中に入り、ようやく耀人あきとは解放されたのだ。

 この部屋に居た二人組はロープで縛りあげて、実行犯の男の部屋に放置した。

 起きたら延滞料金で大変な事になっているだろうけど、知った事ではない。


 ひかりは服が破られた事を心乃葉このはに連絡して、着替えを持って来るようにお願いしていた。

 それを待っていると随分早くに、男の携帯が煙を上げた。

 これで撮影された実伶みさとの動画はこの携帯からもネットからも消えたハズだと説明し、耀人あきとは安心した。


ひかりは大丈夫だったか?」

「あ、うん、服を破られたけ」


 今のひかりは下着はつけているものの、シーツを全身に巻き付けていたのが、耀人あきとにはイヤラシイ姿に見えたらしく、耀人あきとはしどろもどろな態度になってしまった。


「俺もこの部屋で待ってていいかな?着替えが届いたら出て行くからさ」

「いいよ。それよりも実伶みさとちゃんに連絡してあげたら?」

「いや、それが実伶みさとのやつ、スマホを忘れて行ったから連絡とれないんだよな」

「じゃあ家に行くしかないって事?」

「一応、俺の部屋に張り紙をしてきたよ、スマホを持ってひかりの家に行くって」


 それから、暫く、無言の時間が流れた。

 正直二人は気まずいと思う耀人あきとだった。

 その耀人あきとのスマホに連絡があった。それは心乃葉このはからで「襲うチャンスだね」とか言い出した。

 その直後に、実伶みさとからも同様に「襲うチャンスだね」と来た、どうやらひかりの家で受け取ったみたいだ。

 耀人あきとひかりに二人がふざけて送って来た事を伝えた。


「まったく、ふざけてるよなぁ~」

「──…まぁ、したかったらしてもいいけど?」

「どうしてだよ!」

「──避妊さえすれば、そう言うのは自由なんだって。恋愛も肉体関係も自由。大人って意味わかんない……」

「じゃあ誰にでもやらせるって言うのか?」

「──それは、そうじゃないけど、耀人あきとさんだから、だよ?お互い初体験じゃなくなっちゃったケドね」


 そんな事を言われた耀人あきとは固唾を飲んでひかりを見つめていた。

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