第35話 日常の再建、からの長い二日間⑨

 耀人あきとが茫然としながらも、もう何も考えたくないとベッドに横たわった。

 すると、枕元に堅い物があった。


 実伶みさとのスマホだ。

 しかも電源が切れている。


 耀人あきとは悪いとは思いつつ、なんとなく電源を入れるとHOTLINEの未読が大量に溜まっていた。

 その内容は、今日もやらせろと言う内容で、返事が来ない事で何度も送り続けていたらしい。

 どうにも耀人あきとが見てしまった事で既読が付いたのに気づいたのか電話までかかって来た。

 電話を通話状態にすると、やはり昨日の中年の男だった。

 腹が立って切ってもまたもやかけくる。最終的に着信拒否に設定した。


 耀人あきとは昨日の実伶みさとの会話にあった『動画を撮影されて脅された事』を思い出した。

 もしかすると、エンコーをやめれない理由はそこにあるのではと考える。

 相手の電話番号をメモして、またもや走った。


 目的地は再びひかりの家。

 たどり着くと息を切らしたままインターホンを鳴らす。


「またなの?今度は何?もしかして、お金もやっぱり欲しいって話?」


 インターホン越に話は出来ないと言って、家に入れてもらう。

 そこで、心乃葉このは愛理らぶりとさらに知らない人まで居たが構わず話した。


「魔法少女にお願いがある。ある男を懲らしめて欲しい!」


 経緯を洗いざらい話した。

 それで電話番号を教えると、まるでそれが当たり前の様にひかりが電話をかける。


『誰だ』

『はじめまして、蛍っていうの。エンコーしてくれるって聞いたんだけど?』

『ああ、まずは会って話そう、何処に行けばいいんだ』

『じゃあ───』


 あっさり呼び出してしまった。


ひかりが援助交際するのか!?」

「やらないよ、やれなくするだけ。あ、心乃葉このはちゃん、データ消去の連絡お願いしていい?」

「わかったわ、タイミングは指示してね」

「ありがと、じゃあ行ってくるよ」

「え?もういくの?」


 あまりの話の速さに耀人あきとが動揺していた。

 耀人あきとは陰ながらついて行く事にした。

 相手にはひかりが自身の服装と髪型の特徴を伝えているので、待ちあわせ場所で声をかけてくるという話になっている。

 二人で移動して、待ち合わせ場所にひかりが立ち、耀人あきとが少し離れた所から監視していた。

 だが、待てども待てども、声をかける者は現れない事にひかりは少し焦り始めた。

 肩の出たワンピースなんて場違いだったかなんて思いながら、どんな服なら良かったのかと思案していると、ようやく声をかけて来た男がいた。


「君が、蛍ちゃん?」

「はい、そうです」

「そうか、じゃあコレ見てくれる?」

「!!!」


 それは耀人あきとが捕まって、ナイフで脅されている映像だった。

 ご丁寧に猿ぐつわをされ、椅子に固定されていた。


耀人あきとさん!」

「むー!むー!」

「おっと、この通話が切れれば、即座にナイフが彼の喉を刺す、そうされたくなければ大人しく言う事を聞きな」


 その男の手がひかりの肩を掴んだ。

 そして近くのホテルに連れ込まれる。

 そこはひかりも入った事の無い空間だった。

 ガラス張りのお風呂場に、ガラス張りのトイレ、鼻につく匂いに、ふかふかのベッド。

 冷蔵庫まで完備されていて、テレビもある。そしてゴムが二つ。

 テレビをつけてみると、イヤラシイ映像が流れるのに気づいて即座に消した。


「蛍ちゃんはエンコーするの初めてかな?」

「はい、勝手がわからなくてごめんなさい」

「そうだな、最初に話した時、値段を提示するんだけどね」

「そうなんだ」

「まぁ、それがないなら、タダでいいって事だね」


──────────────────────────────────

▼補足「耀人あきとはどうして捕まったの?」

 相手は耀人あきとの顔を実伶みさとのスマホの待ち受けで知っていました。

 突然の知らない人からの連絡に警戒しない訳がなく、しかも昨日の今日。

 待ち合わせ場所で耀人あきとを探せば案の定。

 ぺろりと舌なめずりする男だった。

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