第34話 日常の再建、からの長い二日間⑧☆

 耀人あきとはコンビニの店員がひかりの事を知っていた事に驚いたが、すぐに目線を逸らしてしまう。


「もう、元彼氏ですよ、知らないんですか?市長と結婚したの」

「あーそうだったね、惜しかったなぁ全裸で迫られた時に食っとけばよかったよ」

「………」

「冗談だよ、でも、あの子はアイスを美味しく食べる才能があったなぁ」

「なんだよ、その才能」


 そんな話をしている内に、店員が同じ学校だと知った。

 ここのコンビニは中学生でも雇ってくれるから重宝していると教えて貰ったりした。

 その後、何故か実伶みさとの話になった、さながらお悩み相談室だ。


「そりゃあ、お前が悪いだろ?若気の至りで子供こさえたり、おろしたりってリスクだよな。おろしたら一生妊娠できなくなる子も結構いるらしい、覚悟もなく生でするってのは相手を蔑ろにしてると言う事だ。とりまさっさと謝ってきたら?」


 その言葉をきいてなお、足や腰は地面に根を張ったようにピクリとも動かない。

 自分が悪いのは分かっている。だからと言って、自分の彼女が他の男と寝る事を許せるのかという話だ。


「その子にとってみればエンコーなんて金稼ぎの便利な道具なんでしょ。そういう子はだいたいルールをちゃんと決めて上手くやってるよ。君にとってはそんな事をしたらもう二度と友達にすら戻りたくないって思う訳?縁を切っちゃう?それで別れるのも一つの手だけどさ、もし嫌だって思うなら、自分にしか目が行かない様にしてやれよ、エンコーなんてさせてやんねー、他の男だって見させるもんかってな。ま、そのために金がいるんだけどな」


 具体的に何をすればいいのかなんてわからなかった。

 兎に角、謝ろう、そこから考えればいい。

 そうして足は自分の部屋に向かって走り出したのだった。


 ***


 耀人あきとが自分の部屋の前につくと、ドア前には実伶みさとが座り込んでいた。

 少し落ち込んでいた事を心配すると、とりあえず中に入る事にした。

 事情を聞こうとしたら、実伶みさとが抱き着いて来た。

 そして静かに泣いている。


 耀人あきとは動けなくなっていた。

 何があったのか聞くべきか悩んでいた。

 そんな時間がじりじりと経った頃、実伶みさとはぽつりぽつりと話し始めた。


 彼氏と生でしたからお金が必要になった事を言ったら、途端に相手が豹変してたらしい。

 どうせアフターピルを飲むのなら生でしても一緒だと言いながら何度も中で出されたそうだ。

 訴えると言って騒いで3倍のお金をむしり取ろうとしたが逆に動画を撮影されて脅され結局お金を貰えなかった。

 震えながら謝る実伶みさとに、耀人あきとはアフターピルを差し出す。


「これ、どうしたの?」

「──知人から貰った。早く飲む方がいいらしいよ」

「うん、すぐに飲むっ」


 それから、実伶みさとは援助交際相手を忘れたいと言って体を求めて来た。

 耀人あきとはそれに大人しく従い、何度も行為を繰り返し、気づけば朝になっていた。

 自分の腕の中で眠る実伶みさとは可愛いく見えたのは恐らく初めての相手だからだと思った。

 ただ、行為を繰り返す最中ですら、彼女の顔がひかりに見える事があった。

 その事を失礼な事だと思い、自分を戒める。


「おきてたんだ、おはよ」

「おはよ、随分眠れたみたいだな」


 その時の実伶みさとは思い詰めていた。

 その事に耀人あきとは気には止めたものの薬のせいかと思っていた。


「あのね……、私、エンコーやめれないから、別れよっか」


 突然の別れの宣告に耀人あきとは激高した。

 実伶みさとが止めない理由が分からないのだ。


「なんでだよ!また、昨日みたいな目に遭うだろ?いい加減、目を覚ませろよな!」

「あはは、まぁ、あんなのは滅多にないって、きっと大丈夫だよ」

「そんな訳ないだろ!」

「───ごめん、もう帰るね」


 結局、耀人あきとはそれ以上、何も言えなかった。

 去り行く背中をただ見つめていた。

 切っ掛けは最初の自分の行為だと自己嫌悪に陥る。

 そして、どうして止めなかったのか自問を繰り返していたが、そこに答えなんてなかった。

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