第33話 日常の再建、からの長い二日間⑦☆

 耀人あきとは手持ちのお金がない事を悔やんだ。

 援助交際の事を咎めて止めようとしたのに、止めれなかった。


『引き留めてどうするの?買って来てくれるの?できないよね?妊娠しないかもしれないから様子見ようとか思ってる?それで妊娠したらどうするのよ、責任とれるワケ?取れないでしょ!だったら止めないでよ!』


 キツイ言い方に堪えたというよりも、心のどこかで『妊娠しないかもしれない』なんて思っていた自分を見透かされていた事が辛かった。実伶みさとの言う通り責任なんて取り様がない。そもそもアフターピルを買えないヤツが出産費用なんて出せる訳がなかった。

 実伶みさとは援助交際するとしてもそういう事にならない様に安全に自身を使って稼いだり、楽しんでいるのだろう。

 その点、今回の自分がした事と言えば強引に押し倒して、有無を言わさず挿入し、抵抗される間もなく出してしまった事は最早、犯罪と言ってもいいくらいだ。

 それでも、彼女が援助交際するのは止めたい。


 そして、思い出してしまった。ひかりと買い物に行った時に見た財布は万札が何枚も入っていた。それを借りる事さえできればと考えた、そう思った時には走っていた。

 実伶みさとが援助交際を始める前に止める、そのためには1分1秒でも早く買わなければならない!その為なら恥も外聞もない。それだけの覚悟を持っていた。


 ひかりの家にたどり着いた時は、息が切れて喋るのも辛い状態だったが、インターホンを鳴らす。ひかりの「はーい」という声の後、耀人あきとがゼイハアゼイハアと息を整えている間に「変態なら他所でやってください」と言い放たれる。

 慌てて自分の名前を言うとすぐひかりは出て来てくれた。


耀人あきとさん、どうなされたのですか?」

「その、お金、貸して、欲しい」

「──使い道を聞いていいですか?」


 耀人あきとはここで嘘をつく事は出来た。だが、それはひかりへの裏切りとなると考えたのかは良く分からないが、嘘を付けなかった。きっとそれだけ必死だったのだ。

 恥ずかしいとは思いつつ、ありのままを説明したところひかりは家の中に戻り出てきたには錠剤を手渡された。


「これが、アフターピルです。私にはもうので差し上げます、いいですか12時間以内で99%以上の確率で避妊できます。ですが、完全じゃないですからね」

「あ、あり、ありがと………恩に着るよ!」


 耀人あきとは自然に涙腺が緩み始めていた。

 それがどうしてか本人すらも分からないでいた。

 耀人あきとはホテル街に向かった。それは少し離れた場所にあり、比較的耀人あきとの家からは近い。

 走りながらも実伶みさとに電話をかけた。『間に合え!』と祈りながらだったが、電話でに出たのは実伶みさとの声ではない。中年の男の声がした。

 さらに、息づかいが荒くパンッパンッといったリズミカルな音がする。


『君が待ち受けに写っていた彼氏君かい?君の彼女は今、俺の愛を受け止めてるよ、はっはっは』


 実伶みさとの声も聞こえたがそれは聞くに堪えなかった。言葉にすらなっていない喘ぎ声だったのだ。

 気づけば耀人あきとの足は走る気力をなくし立ち止まっていた。

 無意識に通話を切り、スマホを地面に投げつけそうになるのを寸前の所で思い止まった。

 それから、茫然としながらゆっくり歩み始め、暫くするとコンビニが目に入る。

 駐車場の車止めに腰を下ろし、膝を抱えて泣きそうになっていた。


「今日はあの子じゃないのか、んで、何で泣きそうになってるの?」


 コンビニの店員がアイスを持って声をかけて来た。


「今このアイスにはまっててさぁ、仕事サボる度に食べちゃうんだよねぇ」


 何とも能天気そうだ、何も考えないでコンビニのバイトしているだけなんて羨ましい。


「お前もくうか?」


 その店員は2本目のアイスを差し出してきたが、特に食べる気分でもない耀人あきとは断った。


「いや、甘いものは好きじゃないので」

「そうかぁ、じゃあ食っちまうぜ」


 そう言いながら、本当に食いやがった。


「お前、天使ちゃんのお試し彼氏だろ?学校で噂になってたやつだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る