第32話 日常の再建、からの長い二日間⑥

 私達の買い物はこれからだ!とばかりにひかりは足を進めた。

 10人前となると買う量は半端ない、肉3kgを筆頭とした食材が次々とカゴに入ってゆく、魔法少女になる前であれば、その時々の安い食材を買い集めていたのだが、金銭的な余裕がそのリミッターを解除した。つまり、グラム500円オーバーの肉でも気が向けば容赦なく買い込んでいく。そのスーパーが地域密着型である事から、まるで救世主の様に崇められている事は言うまでもあるまい。


ひかりちゃん!今日はイキの良い魚が入ってるよ」

ひかりちゃん様!!さっき届いたばかりの西瓜があるよ!」

ひかり様、今日も可愛いね!オマケするからいつもの様にいっぱい買って行ってな」


 この店員達の対応には三人とも目が点になる思いだ。

 カゴが4つ程いっぱいになった所で清算すると、突如店員が集まり、袋詰めを始める。

 袋詰めした物を再びカートに乗せて、一緒に外に出たと思えば車が待ち構えていた。


ひかりさん、いつもの様に送って行くぜ!え?今日は荷物だけ?おーけい、まかせとけ!」


 ウインクしながら歯をキラリと輝かせる店員に家の鍵と荷物を預けて見送った。

 それを一番不思議がったのは優々菜ゆゆなだった。


「な、なんなの?一緒に乗って帰らないの?」

「普段はそうしてるけど、みんなで歩いて帰った方が楽しいよね?」

「それに、家の鍵渡しちゃって大丈夫なの?防犯は??」

「うん、みんな親切でしてくれてるから大丈夫、食材も冷蔵庫に入れてくれてるよ」

「じゃなくてえ!家の物を盗まれたり合鍵作られたり危ないじゃない!」

「大丈夫、みんな優しい人達だから」

「あー、もう!ちょっと先に行って見てきます!」


 優々菜ゆゆなは平和ボケしているひかりを守りたい一心で家に帰った。

 流石魔法少女というべきか、車よりも早くにたどり着く。

 到着した店員はいそいそと買い物袋を家の中に運び入れた。それを優々菜ゆゆなは気配を消して監視していた。

 店員はLサイズの買い物袋にして8袋を次々冷蔵庫に入れてゆき、濡れた買い物袋はフックに引っ掛け乾かすというきめの細かい対応、さらに冷蔵庫に入れ終われば、鍵を閉めてポストに入れる。

 そして、玄関に向かって一礼して去って行った。


 優々菜ゆゆなにしてみれば有り得ない光景であった。

 そもそも、優々菜ゆゆなが買い物に行けば店員は無愛想だし、袋詰めも自分で行い、持って帰るのも自分だし、冷蔵庫への収納も自分、それが普通だ。いくら量を買うからと言ってこんなVIP待遇はおかしいとまで思ってしまう。

 そこから、この事は市長の妻だから特別扱いなのかと考えたが、後になって二カ月まえくらいからこの状況だと否定された。

 最終的には下等な人類を顎で使うレベルのカリスマ性がそうさせたのだと考える様になる。


「なるほど、人間風情を生かして置くのはこういう時に役に立つからなのね」


 誰も聞いていないと思われていたその独り言は愛織いおりの元には届いていた。

 愛織いおりは遠隔で盗聴しており、愛織いおりの性格が変わらない事に落胆した。

 できれば、この夏休み中にどうにかなればいう淡い希望とひかりがさじを投げないかと心配から深いため息をついた。


 ひかり達が家に着くと優々菜ゆゆなが玄関先で座り込んでいた。


「ただいま、優々菜ゆゆなちゃん」

「おかえりなさい、ひかり様はやっぱりすごいです」

「?」


 よくわからないけど、さらに評価が上がった。

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