第4話 魔法少女の恩恵、そして禍堕ちとの戦い(前編)

 翌日、御影家に朝から次々と荷物が届いた。

 ひかりの制服、普段着といった女物の衣類や靴、小物、下着から色々、さらには専用の魔法ステッキまでも。

 次に三戸森みともりの引っ越し荷物も大量に届く。

 それに伴って三戸森みともり用に部屋を用意したり、男物の衣類を封印したりと忙しい。

 大変な割に疲れないのは、魔法少女の体になったから体力が強化されたお陰らしい。


 そして、いざ女物の下着を着ける事になると、ひかりはそれを見つめて固まっている。

 三戸森みともりはその様子が理解できないで声をかけた。


「どうしたの?」

「改めてみると、ちいさいなぁって。これじゃ頼りないんだよな……」

「矯正下着かスパッツでも取り寄せようか?」

「いや、これでいい。男としては滅多にお目にかからない物だからさ、そういう意味じゃ、ありがたがった方がいいのかなって」

「ごめんなさい、私の幸福値が落ちそうだからもうちょっと人として常識を持ってもらえる?」

「──ごめん」


 全裸で下着を眺めて風邪を引いたらどするんだと、気に掛けていた三戸森みともりだったが心配する事が馬鹿馬鹿しくなった。

 下着を見るくらいなら、自分の体に興味を持てばいい。その方がまだ健全だと思ってしまう。


 三戸森みともりは折角コーディネートしたのに中々着ないひかりの行動にやきもきしていた。

 もしかして女物の服に抵抗があるんじゃないかと疑ってしまうのだ。

 特に膝上20cmのスカートはやり過ぎたかもしれないと思い始めていた。

 しばらくして、ひかりはそのスカートをはいたものの、スカートの感覚に慣れないのかやたら股間の間にスカートを折りたたもうとしていた。


「なにしてるの」

「スースーして気持ち悪いんだよっ、すげえ心もとないっていうか間を何かで埋めたいっていうか……わかる?」

ひかりちゃんが何言ってるのかさっぱり。まぁ大股開けてるよか良いけど」


 今度はくるりと回り、ながらスカートを気にしていた。


「なにしてるの」

「遠心力じゃ、思った程、パンツ見えないなって…」

「脱げば!?(怒)」


 今度は全身鏡にお尻を向けてしゃがみ始める。


「なにしてるの…」

「どこまでしゃがんだらパンツ見えるのかって研究?」

「ちょっとパンツ脱いでやってみて、私が見ててあげるから(怒)」


 三戸森みともりは鬼の形相になりながら、詰め寄った。

 これ以上の研究は危険だとひかりは考えて、自粛する事にした。


 三戸森みともり三戸森みともりで少し安堵していた。

 昨日は強引に性別を変えてしまった事に罪悪感を覚えていた。

 もしかして嫌われるのではないか。もしかして自殺するほどに思い詰めていないかと。

 幸福値だけの問題であれば、市がいくらでも調節できる事を知っている。

 実際、今回の勧誘時には強引に進めた時に幸福値がマイナスになる事を考慮していたのだ。

 意外にもそれを使う必要が無かったのは、ひかりの女体化やごうに対するメンタルの強さが現れた結果だと認めざるを得なかった。


「それで今度はなにやってるの!」

「あ、いや、胸の谷間の──」

むいいて良い?(怒)」


 三戸森みともりは頭を抱えた。「これ本当に御影君よね?」と。

 そんな風に感情を露わにする三戸森みともりの姿をみて、ひっそりとほほ笑むひかりだった。


 11時も回って、ひかりがお昼の献立を考え始めた頃に来客があった。

 誰かと思えば、市長がわざわざ挨拶に来た。世界的に有名なのでひかりも知っている人物だ。


「初めまして、お嬢さん。えっと、御影光さんでしたね、私は魔宮市の市長を勤めさせて頂いている、亜宮あくう麻月まつきと申します」

「は、はぁ、まぁ有名ですしね。名刺に菓子折りまでご丁寧にどうも」


 いかにもエリートサラリーマンといった感じの人だった。

 細い四角い眼鏡がきらりと光れば、改革アイデアが即座に出てくるような感じ。


「これから活躍されるという事で我々も期待しております。あと、これから心乃葉このはの事を宜しくお願いします」

「パパ、もういいでしょ、無理に挨拶に来なくていいのよ」


 ひかりは親子だった事には驚いたが、苗字が違う事におおよその事情を察した。

 それでも頭を下げる市長というのは中々見れない光景で、それだけ娘の事が大事なのだろうと感じた。だが、そうだとした場合、自分がここに居るのはお邪魔なのは明白だと考え、その場から立ち去る言い訳を考える。


「じゃあちょっと飲み物でも入れてくるよ、二人で話してて──」


 ひかりはそう言って、立ち上がろうとする所を三戸森みともりが袖を掴んで制止し、少し首を横に振った。

 それは二人きりにするなというサインだった事はひかりにもすぐに分かった。

 亜宮あくうはそれを見て、仕方なく本来の仕事を遂行する事にした。

 それは魔法少女の特性の説明、存在についての隠匿性、機密保持等の注意事項や雇用関係などの事務的な事を説明して、最後には渋々帰って行った。

 雇用関係については『退職ができない公務員』という扱いになるそうだ。その為、上下関係となるので市長とHOTLINE(メッセンジャーアプリ)の交換を行った。


「話さなくて良かったの?」

「いいの。それより、お出かけしましょ!昨日言ってた魔法少女の恩恵にね!」


 三戸森みともりは『これから意中の人とデートでも行くのか』と聞きたくなるくらいの可愛い服に着替えていた、そして、元気に歩きながらひかりの手を引っ張る。

 ひかりは気づいてしまった。これって、もしかしてデートなのでは?と、そう考えると、ちょっとテンションが上がると同時に緊張もしてきた。


 目的地は電車で二駅隣、東区にあるホテルだと言っていた。

 ひかりはホテルと聞いて真っ先に脳裏によぎった物を、咄嗟に消した。昼間からそんなところに行くわけがないだろうと、自らに渇を入れる。

 電車に揺られながら、ひかりは自分が注目されている事に気が付いた。恐る恐るスカートがめくれてないかチェックするが、特に問題は無い。そうなると、どうして注目されているのかと疑問が湧いて来る。

 その答えを三戸森みともりがあっさり答えた。


「それだけ可愛いって事よ、喜んでもいいのよ?でも、あまり浮かれないでね」

「そう、なんだ。ふぅん………悪い気分じゃないね、でも僕は三戸森みともりさんの方が可愛いと思うよ」

「そう」


 三戸森みともりはお世辞には乗らないと言わんばかりに無関心を装った。だが、少しばかり口角が上がっているのをひかりは見逃さなかった。


「まぁ、みんな胸を見てるんじゃない?」


 ひかりはうっかり胸を持ち上げ気味に揺らしながら発言した言葉は三戸森みともりの逆鱗に触れてしまった。自分の頭にできた大きなたんこぶをさすっていると、周りの目が充血し怖くなっているのに気づき、ふざけた事を反省するのだった。


 目的の駅に到着するとホテルは目の前にあった。そこから35階に登り、ひかりは入口の装飾からお店の格式の高さを察して気後れしてしまう。


「ねえ、ここ、凄く高そうなんだけど!?」

「大丈夫、無料だから!」


 ひかりは値段に怖気づき、半ばしがみ付く様について行くと、中は高そうなケーキバイキングのお店だった。

 三戸森みともりがピンク色のカードを見せると、特等席に案内される。

 聞けば、そのカードを見せる事でVIP待遇が受けれる。例えば、バイキングなのに持ってきて貰えるとか、2時間制限が閉店までの無制限になるとか、特別メニューが提供されるとかだ。

 そして請求は市が持つから個人負担なし。そんな凄いカードをひかりも市長から貰った事を思い出す。


 メニューを渡されひかりがケーキを選ぼうとすると、三戸森みともりがお任せで頼んだ。すると、ケーキが切れ目のないホールの状態で次々と運ばれて来た。


「こんなに食べるの?」

ひかりちゃん一人でも食べれるよ、魔法少女の別腹は真の意味の別腹だから、そう、無限の胃袋なのよ!!」

「だけど、お昼ご飯食べてないから、別腹にする必要は──」

「さあ、食べるわよ!」


 ひかりは思った。それもそうだ、高そうな物を無料で食べれるならいくらでも食べてやるという意気込みで挑んだ。

 最初はスタンダードなイチゴのショートケーキ、ではなくイチゴのホールケーキだ。

 直径が普通のケーキの2倍くらいありそうだけど、気にせず端から直接フォークで削って、口に運ぶ。


「美味しい!」

「でしょう?ここのケーキはどれも格別に美味しいの、私のおすすめはフルーツたっぷりのミル・クレープね。実は魔法少女の最大の恩恵はこれをタダで食べれる事じゃないの。いくら食べれて太らない事よ!!!」

「なんですとー!?」

「しかも、甘味は大事なの。魔法少女に欠かせないエネルギーの元だからね、普通の食事よりも効率がいいわ」

「すごい!美味しい!すごい!美味しい!すごい!美味しい!」

「語彙力なさすぎぃ~~。もう~、ほっぺに生クリームついてるよ」


 ぺろりと舐められて硬直してしまうひかり


「あ、あああ、あああああ」


 ひかりはその動揺からまともに言葉を発せれなくなる。


「あ、嫌だった?」

「全然、全然大丈夫ですっ」


 その言葉を聞いた三戸森みともりはクスリと笑った。その笑みは伝染し、ひかりまで屈託のない笑顔にさせた。

 この後、命の危機に陥るとは露知らず、平和な時を楽しんでいる二人だった。


──────────────────────────────────

▼今回、前中後の三部編成です。

 関係ないですがHARBSのミルクレープいいですよね。一度ホールで買ってみたい。

 1カット930円、1ホール9300円、高い、高すぎる、でも美味しい!そしてでかい!

 あのでかいケーキを形を崩さずカットする技術も凄いと、つい見惚れてしまう。

 そんな野望が小説ににじみ出た事は否定できません。

 あ、それだけが言いたかっただけです。

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