1時間で書いた青春小説
はいんじん
偽善
◆◆
「おはよ」
僕はそう言って隣の席の加奈に話しかけた。
すると、ぼそっと「おはよう」と返してくれるので、うれしくなって僕ははにかむ、しかしそれ以上話してくれないのでそれ以上にもどかしく感じる。
僕はバックを横に置いて、椅子に座る。
早めに学校に来たこともあってか、まだ教室は騒がしくない。開けられた窓から入ってくる生暖かい春の風が、僕の頬を撫でていた。
僕はあまり話せないものの「おはよう」と返してくれる今の生活が気に入っていた。
◆◆
「何あんた、ムカつくんだけど」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
しかしそんな日々が三年間続くことはない、隣の席の加奈は、あまり人と話せないその性格からか、女子のターゲットにされ始めていた。
最初はウザ絡みをされ、そこから椅子を蹴られたりスリッパを隠されたりと、典型的ないじめが横では起こっていた。
昨日も彼女は途中から、服がびしょ濡れになっており、ノートなども落書きをされ、書ける状態ではなかった、大きな目元には涙の跡ができており、泥の被ったような無機質な目をしていた。
僕は彼女に聞いた。
「このままではだめだから、先生にでも相談しなよ」
あぁ僕は今でもこの言葉に後悔してる
だって、だってわかるだろ、先生に言ったらさらにいじめられるに決まってる、しかも僕は彼女を一度も助けられなかった!!
「あと少しだから」
彼女は微笑みながら僕に小さな声で呟いた。
でも、僕には泣く寸前の顔に見えたんだ。
それでも、どんなけくいても、叫んでも
僕はきっと、彼女を助けられないだろう。
◆◆
僕は正義が好きだった。
人のために行動し、助けて、みんなを笑顔にすると言っていた、だから困った人がいたら悩みを聞いていた。ありがとうって返されるのが好きだった。
人のために、笑ってもらうために
もっと頑張って
助けて
話も聞いて
聞いて
聞いて
助けて
笑って
笑って
笑って
ーーもうやめてよ。
ーー君の行動のせいで壊れたんだ。
ーー君がやってるのは自己満足に過ぎないんだよ。
ーーだから。
「これ以上僕に踏み込むな」
「げほっ」
僕は目が覚めたすぐにトイレに駆け込み、気持ちごと吐き込んだ。鏡を見ると目には泣いた後ができており、最近寝不足のせいか、目には大きなクマができていた。
「…そう言えば夜ご飯、食べてなかったな」
僕はおぼついた足取りで歩き、冷凍庫から適当に冷凍食品を取り出す。親はどちらも仕事でいない、今日も泊まり込みだろうか。
ーーーごめんなさい、ごめんなさい
加奈が謝っている言葉を思い出してまた気持ち悪くなる、ご飯すら手につけないほど僕は衰弱していた。
「ごめんな」
僕は、宙に向かい謝罪をした。
その言葉は誰にも聞こえず、無価値だった。
◆◆
彼女のいじめはもっとエスカレートした。朝早くからいじめっ子がやってきて、何度も彼女に水を被せて、紙を破った。
無視だ無視、僕はそう言い聞かせて目を瞑る。
いつまでも彼女を助けられない無価値な僕に言い聞かせるように言い訳を唱えた。
彼女の痛々しい声が聞こえてくる。僕は耳を押さえて何も聞かないようにする。
(あれ、僕、彼女の事好きで、興味があって話しかけたのにな)
いつからだろうか、加奈におはよう、って言わなくなったのは、いつからだろうか、加奈に声をかけなくなったのは。
しかもそれ以上に加奈が傷つく言葉をかけてしまった。先生に言うのはみんなにとって悪なのに、僕は加奈にそれを勧めてしまった。他人事のように言ってしまった。
助けるのは自己満足で、相手も望んでいない。
そう思ったのはいつからだろうか。
昔、母に言われた言葉を思い出す。
「やらない善意より、やる偽善だよ」
だから、でもそれでも
◆◆
「いじめっ子の女子3人は、退学処分となりました」
教師たちが僕に頭を下げている。僕は彼女らのいじめを録画し、助けなかった教師陣をメディアに晒すという脅しで、無理矢理学校側を動かせた。
「僕じゃなくて、本当に謝る人がいるでしょ」
僕はそう言い残し学校を出る。外には加奈が待っていて、感謝を伝えてくれる。でも僕は、そこに最初にあった嬉しさはなく、ただただ自分が気持ち悪かった。
いじめがなくなれば、僕の行動は救われていたのだろうか、僕は君にふさわしくなれていたの、だろうか
僕は最後まで、彼女を助けられなかった。僕は、結局他人に任せてしまった。
もし僕があのトラウマを忘れられたら、今度こそは彼女を助けられるのだろうか。
僕の青春は、濁っていて、黒ずんでいた。
1時間で書いた青春小説 はいんじん @wtpmjgda7878
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