私には愛する婚約者がいますから!
部屋に戻った私は急いで手紙を書きました。手が震えて何度か書き直しましたが、そんなことを気にしている余裕なんてありません。
メイドを使いに遣って手紙をジネット様に送ると後はひたすら待ちました。私の噂について思うところがあるのなら必ず反応があるはず。
予想は当たりました。手紙を書いて二日後の夕方にお目にかかることになったのです。
場所は前回同様ジネット様のお部屋で、あちらの席も中央にジネット様、右手にユゲット様、左手にルシール様が着席なさっています。
違う点は、今回の私は着席を許されたということでしょう。お茶はないですが、まずは前回よりも待遇は改善されたことから少し心が軽くなりました。それでも両脇のお二人のお顔は厳しいですが。
私が座るとすぐに、真ん中に座ったジネット様が口を開かれます。
「あなたからの手紙を読みました。本日はその件でお話を伺うために招いたわけですが、念のために確認いたしましょう。あの内容に嘘偽りはありませんわね?」
「はい」
私ははっきりとうなずきました。手紙の内容とは、王太子殿下達と実際にあったことについての説明です。これを説明しないと噂が事実だと思われてしまいますから。
しばらく私をじっと見つめられていたジネット様でしたが、やがて一旦目を閉じて小さなため息をつかれます。
「女遊びは男の甲斐性と言いますが、本気でのめり込んでしまわれるのは論外ですわね」
「何が甲斐性なものですか! 単にだらしないだけです!」
「婚約者を蔑ろにする男に甲斐性なんて認められません」
ユゲット様とルシール様がすぐさま反応されました。いつ矛先が自分に向くかわからないので気が抜けません。
余程不満を溜め込んでいたお二人がある程度しゃべり尽くすと、再びジネット様が私に問いかけられます。
「あの方々には本当に困ったものです。それであなたの方ですが、ジョゼフ様と他のお二人に興味は」
「まったくありません。私には愛する婚約者がいますから!」
半ばジネット様の言葉を遮る形で私は返答しました。このときばかりは一瞬周囲のことを忘れて目を輝かせてしまいます。
そんな私を見たお三方は一瞬息をのまれました。しかし、ジネット様はすぐに気を取り直されます。
「リュフィエ男爵家のモルガン殿、確か三男でしたわね」
「男爵家の三男? それでしたら、あの方々の方がはるかに格上ではないですか」
「あなたにはお似合いだろうけど、気が変わる可能性がありますね」
ジネット様の言葉にユゲット様とルシール様がすぐに反応なさいました。私にもモルガンにも厳しいです。
けれど、ここで言われっぱなしではいけません。何か言い返さないと!
「モルガンは確かに男爵家の三男ですが、とても素晴らしい方なんです。とても優しくて、しっかり者で、人情味があって、義理堅くて、お顔もすごく整っていて、体もきゅっと引き締まっていて、更に麗しい香りがして」
「わかりました。あなたがモルガン殿のことをとても思っていることは理解できました」
まだこれから色々と話そうとしていた私は、若干呆れているジネット様を少し不満そうに見返しました。両脇にいるお二人は、お一人は目を見開き、反対側の方は目を細めていらっしゃいます。
ただ、いくらかですがお三方の雰囲気が和らいだように感じました。
不思議そうにしていますと、ジネット様が再び声をかけてこられます。
「噂は噂でしかなかったということは理解できました。あなたの姉の件もありますから、噂が広がったのもやむなしとは思いますが」
「誤解は解けたということでしょうか?」
「ええ。今後はわたくし達の婚約者に近づかないように、と忠告したいところなのですが、あちらから近づいてくるのでしたわね」
「最近はお目にかかっておりませんが」
「それだけでは不安ですわね。さりとて、これといった名案が浮かぶわけでもありませんし。ともかく、当面は様子を見ます。もし何かあれば相談に乗りましょう」
何が良かったのかよくわかりませんが、ともかく誤解は解けたようでした。これで子女の皆さんからの敵意は和らぐでしょう。そうあってくれると嬉しいです。
かなり心を軽くして私はジネット様のお部屋を辞することができました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます