広まる噂
王太子殿下達お三方にはっきりと申しつけたと思った私は、これでまたひっそりと学校生活が送れると思いました。事実最初の数日はその通りで平穏そのものだったんです。
ところが、やがて異変に気がつきました。周りの皆さんが私を見てはこっそりと話をするという光景を見かけるようになったからです。
すぐにでもその話の内容を確かめたかったですが、何しろ周囲に避けられているせいで話をしてもらえる相手がいません。孤立している弊害がこんなところで現れるなんて!
何とももどかしいことでしたが、意外なところからその話を伺うことができました。
いつものように樫の木の下でモルガンと会ったとき、その顔色があまり優れていないことにすぐ気付きました。気になった私は抱き合う前に尋ねてみます。
「モルガン、浮かない顔をしているようだけど何かあったの?」
「実は、きみがキトリー殿のように王太子殿下達と付き合っているという噂を聞いたんだ。あの三人に囲まれて談笑しているところを見たという人もいる。それが気になって」
「なんですって!?」
とんでもない噂が広まっていることに私は驚きました。
どうしてそんな根も葉もない噂が、と思ったところで一つ思い当たる節を思い出しました。王太子殿下達に初めて呼びかけられたときのことです。
「前に教室移動の途中であの方々に呼び止められたことがあるの。私を姉上の代わりに見立てて近づいていらっしゃったけど、きっぱりと断ったわ。それを誰か見ていたのかも」
「そんなことがあったんだ」
「ええ。でも、それ以来あの方々とはお目にかかっていません」
「信じるよ。けどそうか、そんな事情があったのか」
つらそうな表情をするモルガンでしたが、私はその顔を見て内心とても嬉しく思いました。だって、噂よりも私の話をすぐに信じてくれたのですもの!
けれど、これだけでは何も解決になっていません。それはモルガンもわかっていたらしく、真剣な表情で私に話しかけてきます。
「そうなると、このまま噂が広まるというのは良くないな。どうにかして打ち消せたら良いんだけど。何か良い方法はあるかい?」
「難しいわね。何しろ私は姉上の妹ですもの」
私達二人はため息をつきました。噂は根も葉もないものだとしても、その噂に信憑性を与える材料は充分ありますから。
しばらく黙っていた私達ですが、やや難しい顔をしたモルガンが独りごちます。
「王太子殿下達はどうするつもりなんだろう。この噂を迷惑がっているのかな。それとも喜んでいるのかな?」
「どういうこと?」
「きみは以前あの方々にはっきりと断ったと言ったけど、向こうは受け入れてくれたのかな? 返事は聞いた?」
あのときのことを振り返って私は固まりました。言い切ったことは確かですが、お三方の返事までは聞いていません。
返事をしない私の態度で察したモルガンはより眉をひそめました。
「普通はそれで引き下がってくれるものなんだろうけど、相手が相手だからどうかな」
「けれど、あれ以来誰も私の前に姿を現してはいらしてないわ」
「だったら良いんだけど、中には諦めきれない方がいるかもしれないし、高位の方々の中には強引な方もいらっしゃるから」
話を聞いて私も次第に不安になってきました。
そんな私にモルガンは更に問いかけてきます。
「それと、僕は女性のことはよくわからないんだけど、あの方々の婚約者はこの噂をどう受けとめているかってわかるかな?」
「え?」
「ほら、幸い婚約破棄は家の方から無効だって声明があったらしいけど、ご令嬢の内心は穏やかじゃないと思うんだ」
モルガンの話を聞いた私は蒼白になりました。前に姉上がやらかしたときに問い詰められたことがありましたけど、今回は私が当事者ではありませんか!
これは放っておくことはできません。下手をすると、私まで学校を追放されかねないです。
「オリアンヌ、顔色が悪いよ。気分が優れないかい?」
「ええ」
「名残惜しいけど、今日はもう帰った方が良さそうだね。宿舎近くまで送ろう」
私も非常に残念ですが部屋に戻ることにしました。逢瀬を楽しむどころではなくなりましたから。
隣に付きそうモルガンにもたれかかるようにして、私は樫の木の下を後にしました。
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