誰を見ているのですか?

 モルガンとの絆を改めて確認できた私ですが学校生活は悪化しました。有力な貴族子女三人を敵に回したということで、周りの方に避けられるようになったのです。


 そんな私の唯一の慰めは記録の魔法石を聞くことです。魔力を少し流すと周囲の音を録音できるのですが、これにモルガンの声を込めて聴き入るわけです。


『オリアンヌ、きみ以外は目に入らないよ』


『僕の可愛い妖精オリアンヌ、ずっとそばにいてほしい』


『愛しているよ、オリアンヌ』


 自分の部屋で魔法石を取り出し、何度も繰り返し聞いていました。恥ずかしがるモルガンにお願いしてようやく録音してもらえた私のお気に入りです!


 こうして孤立している学校生活に潤いを求めていると、両親から魔除けのペンダントが届けられてきました。鎖型の細いチェーンに丸い銀の球が取り付けられた首飾りです。


「これは確か、姉上の魔除けのペンダントではないですか」


 着用者に対する魔法の威力を軽減するという代物です。まだ私が実家にいたときに、姉上が魔法で害されかけたので両親が与えたものではないですか。


 そのときはプロスペール様が魔法で姉上を守ってくださったそうですが、モルガンは魔法を使えません。ですから、尚のこと私にはこのペンダントが必要になりますね。


 ペンダントを身に付けてしばらくしたある日、驚くべき事がありました。


 教室移動のために一人で歩いていると、焦げ茶色の短髪に青い瞳の精悍な顔立ちの方が笑顔で声をかけてきたのです。ルシール様の婚約者イジドール様です。


「やぁ、元気がないじゃないか。どうしたんだい?」


 あまりの出来事に私は固まってしまいました。今まで見向きもしなかったというのに、なぜいきなり親しく声をかけられてこられるのでしょうか。


 次いで、ふんわりとした金髪で穏やかな紅の瞳の大変な美形の方が近づいてきました。ユゲット様の婚約者プロスペール様です。


「悩んでいることがあったら、ぼくに相談してみないかい?」


 つい先日まで無視していたのに、旧知の知り合いのような接し方をされるのは違和感しかありません。


 今度は背後から声をかけられました。振り向けば、そこには爽やかな笑顔の王太子殿下がいらっしゃるではありませんか!


「きみ達がいきなり話しかけたものだから、オリアンヌ嬢が驚いているじゃないか」


「そんなことはないです。ぼくはただオリアンヌ嬢の悩みを聞こうとしていただけです」


「オレは元気づけようとしただけですよ」


 殿方三人が言い合いを始めました。まるで私を取り合っているように見えます。


 わけがわからない私は一礼すると立ち去ろうとしました。けれど、何と三人とも私に付いてこようとするではありませんか!


「教室まで送ろう」


「ぼくも送るよ。それくらいできる」


「よし、それじゃオレも!」


 どうしてと思わず私は叫びそうになりました。今まで気にもしなかったくせに!


 思い切って王太子殿下に伺ってみます。


「姉上がいたときは見向きもされなかったのに、なぜ今になって私に構われるのですか?」


「それは、きみの姉があんなことになったから、つらいだろうと思って」


「そもそも婚約破棄宣言なんてされなければ、こんなことにならなかったではないですか。それに私は姉の代わりではありません!」


 思わず口にして私は目を見開いてしまいました。さすがに言い過ぎたかと思ったからです。ところが、三人とも私から目を逸らしたではありませんか。まさか、本当に?


 姉上がやらかしてからまだ一ヵ月も経っていませんが、もしかしてこの方達は何も学んでいないと? 妹で同じ事を繰り返そうとしていることを気にも留めていない?


 いきなり愛しい人が目の前から消えて動揺してしまう気持ちはわかりますが、だからといって身代わりにされた方はたまったものではありません。


 それに私にはモルガンという婚約者がいます。あの方を裏切ることなんてできない!


「申し訳ありませんが、私は姉の代わりになる気はありません。それに私には既に婚約者がおります。彼を裏切ることはできません。それでは」


 毅然とした態度で私は言い切ると、一礼してその場を去りました。


 これで皆さん諦めてくださるでしょう。

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