第29話 いつの日か、真に誓える時がきたら
「じゃあ、ボクと恋人になってよ‼︎瑞希‼︎」
彼女は顔を赤く染めながら、されど勢いよく、彼に対して叫ぶ。発した内容は告白にとれる内容で……いや、告白とそのものと言っていい言葉だった。
「はっ?えっ……何言って……」
瑞希は絶賛困惑中だった。
──いや、困惑しているように装っていた。
その実、瑞希は雪音が自分自身に対して、何か特別な感情を抱いていると知っていた。
少なくとも、こうしてリアルで会ってからだが。雪音は前々から瑞希に対して、特別だと言っていた。初めは、単純にその関係性故なのかと思っていた。互いが、互いにとって特別なのだとそう思っていた。
されど、会うようになってわかってしまった。
確かにその関係性故の事ではあるのだろう。でも、やっぱり、違うと思ってしまった。
その特別と言う言葉に他の、別の意味が入っているのだと分かってしまった。
違い過ぎるのだ。自分に対しての反応と他の人に対しての反応が。それこそ目に見えて分かるくらいに。
──だが、瑞希は目を背けていた。
違う筈だと、自分の勘違いだと。そう自分の心に言い張って、目を背けた。
一つ、言うならば、瑞希は彼女の想いに応えることはできる。されど、その形は歪になってしまうだろう。少ないとも、今のままでは。
そのことを瑞希も分かっていた。自覚していた。だからこそ、彼は今この瞬間、雪音の想いを受け取ることはないだろう。
ただ、一つ、たった一つだけ言うならば、瑞希は雪音の幸せを願っている。できることなら自分自身が幸せにしたいと思っている。だが、今のままではそれは叶わないだろうと、そうとも思っている。
それ故に、いずれ、いずれ、自分が過去に囚われることが無くなったのなら、自分で彼女を幸せにすることが出来ると真に誓える時が来たのならば。
その時は、自分から彼女に想いを伝えよう。例え、彼女がその想いが叶うことがなくても。それが、瑞希自身が雪音に対しての想いを自覚した時から課していた自身への決まりであるのだから。
「…………」
雪音はやってしまったと、後悔していた。本当ならば、こんなことを言うはずなかったのに……と。
勢いに任せて言ってしまったのだ。
けれど、答えなど、彼の口から言われるまでもなく分かっている。受け入れられるはずがない。
──だから。
「……ふふっ、じょーだんだよ、じょーだん。ビックリした?」
「──えっ」
──嘘だったと、冗談だったと、言うしかなかった。だって、分かっていても、彼の口か聞くのは嫌だったのだから。
瑞希はそんな雪音の声を聞いて、彼女の方を見る。
「うーん。ここまで言っても認めてくれないかぁ……キミも中々頑固だねー」
「──雪音……」
「試しに言ってみたけど、やっぱ無理だったね。ボクが──」
「分かった。泊まってけ」
瑞希が雪音の話している最中に言葉を遮る。そして、泊まる許可を出した。
「へっ……!?」
雪音は鳩が豆鉄砲を食ったような様子で、呆然としていた。
「だから、俺の家に泊まっていって良いって言ってるの。許可とってるんでしょ?好きにすればいいよ」
本当なら、本当なら許可を出す気は無かった。なんとしてでも帰らせようとしたはずだ。されど、余りにも、見ていられなかった。
必死になって言葉を紡ぐ雪音の様子を、瑞希は見ていられなかった。
辛そうで、悲しそうで、それでいて、元気に振る舞おうとしている彼女を彼は見ていられなかった。──見たくなかったのだ。
だから瑞希は泊まる許可を出した。
だってそうだろう?元を辿れば、雪音があんなことを言い出したのは瑞希に泊まる許可をもらう為、その為に彼女は言ったのだ。
だから、だからこそ、彼は承認したのだ。
絵師な彼女の愛は重い 菊理 @kukurihime
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