第28話 看病 其の八

 瑞希は天を仰ぐ。

まさかの事態に言葉が詰まる。


「あぁ、えー、うーん。」


(マジかぁー、いや、ね?確かに荷物大きいなぁとは思ってたけどさ、お泊まり道具が入ってるなんて思わないじゃん?)


 あの荷物の中身に関しては、確かに具体的に何が入ってるのか聞いたことはなかった。一応、エプロンが入ってたってことは聞いてはいたものの、まさか泊まる為のセットが入ってるなんて想像もつかないことだった。


 瑞希が唸りながら、色々と悩んでいるのを雪音は何も言わずにただ見守っている。

彼女自身少しやり過ぎたかなぁという自覚はある。けれど、泊まる為のセット一式を持ってきたのは、万が一彼の容体が回復しなかったり、悪化した場合に備える為なのだ。最も重症化なんてしたら病院に行った方が良いのだけれど。


「なぁ、雪音?」


「ん?なに?」


「あー、一旦、一旦、泊まるか泊まらない、云々は置いといて、泊まることの許可は親に貰ってるのか?」


 貰っていないなら、それで追い返せるのでちょうどいいのだけれど、少なくとも彼女がこう言った行動にでているのなら許可を取ってないはずがない。そこら辺の根回しはちゃんとがっちりするタイプなのでおおよその答えは分かる。


「許可?もちろん貰ってるよ?流石にボクだって無断でこうゆう事はしないよ?」


 無断でこうゆう事をしないというのなら、泊まる方にも言って欲しかったなぁなんて思う。


「ちなみにですね、その許可をした方っていうのは、父親と母親どっち?」


「えっ?お母さんの方だけど。」


「じゃあ、お父さんの方はどうしたので?」


「お母さんの方から伝えとくってって言ってたよ?心配しなくていいってさ。」


「悠一さん……大変そうだぁ。」


 雪音の父である悠一に対して、瑞希はそう口にする。雪音の両親には過去に一度会ったことあるが、その時にどちらが立場として上なのか分かってしまっている。雪音の母親であり、彼自身の妻には頭が上がらないだろうなというのはわかっているので、彼の協力は多分見込めない。というか言い込められているだろうなと思っている。まぁ親としてそれでいいのかと思わなくはないけれど。


「ん?どうして?」


「いや、だって悠一さん、あの人には、お前の母親には頭が上がらないだろ?絶対、言い込められてるじゃん。」


「前から思ってたんだけどさ、瑞希ってボクのお母さんのこと苦手とだったりする?」


「いや、うん。まぁね。なんというか、的確に弱点を狙ってくる感じがもうね、苦手となんだよなぁ。」


 嫌いというわけではない。なんなら好ましくとさえ思っているし、友好的に関係を築けているものの、あのふわふわとした感じから急に弱点を狙ってくるあの感じがどうも瑞希としては苦手である。なんでもかんでも見透かされているあの感じがどうも嫌なのだ。


「まぁ、確かにお母さんはねぇ。うんうん、その気持ちはボクもすごく分かる。」


「でしょ?……だいぶ話が飛んだな。

そっかぁ許可貰ってるかぁ。」


「うん。貰ってるね。」


「というか、あの人もなんてことを許可するんだよ。普通、恋人でもなんでもない人の家に泊まらせるか?

というか、雪音も異性の家に泊まるなんてこと言うんじゃないよ。俺も男なの!!分かる?何かあっても知らないよ?」


「ふーん。でもさ、瑞希?そんなこと言ってるけど、キミがボクのことなんて襲う気なんて更々ないよね?」


「いや、俺も男だぞ。その信頼は何処から出てるんだよ、全く。」


「まぁ長年の付き合いから?キミがそういうことをしない人だと思ってるからね。

それに、万が一そうゆうことなっても瑞希、キミにならいいかなって。」


(なんならいつでもそうゆう関係になる準備はできてるんだけどね。)


「はぁっ?お前何言って……」


「前からボクは言ってるでしょ?キミはボクにとって特別だって。ボクにとってキミは唯一無二で、何事にも変え難くて、キミになら何されてもいいと思っている。全てを捧げられる。だからね?いいかなって。」


「そんなこと……」


「というかさ、キミの口振りからさ、ボク達が恋人だったら泊まってもいいってことでしょ?」


「はい?」


「ボクと恋人になってよ!!瑞希!!」

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