第21話 ある少女の理由
雪音が視線を向ける先では、瑞希が安らかな顔をして気持ちよさそうに眠っていた。
雪音が冷蔵庫に飲み物などをしまって、戻ってきてから、少しの時間で彼は眠ってしまった。
「ふふっ、キミはゆっくりと休むといい。」
そう言って瑞希の頭を優しく撫でながら微笑む。なんというか見ているだけで幸せな気持ちになれる。
それにしても……
「キミはほんとに休まなすぎなんだよ、もう少し、ゆったりしたらどうだい?」
思わず心の中で考えたことを口に出して、喋ってしまう。寝ていると分かっているからだろうか……
聞こえてないと分かっているからこそ、こうして口に出してしまう。
「ねぇ、瑞希?キミはいつになったら頼ってくれるの?」
彼に問いかける。
もちろん反応はない。
反応が返って来ないから言えたのだけれど、でもどうせなら彼が起きてる時にそう問いかけたかった。まぁ、問いかけたところで碌な返事が返って来ないだろうし、多分そのことでさらに彼は悩んでしまうだろう。だから言えないのだ、直接。
本当ならもっと頼ってほしい。
最悪自分じゃなくてもいいから誰かに甘えてほしい。そうしなければ彼は壊れてしまう。
だから今日、雪音は看病しにやってきた。
無論、昨日のこともあるが、無理にでも瑞希の家に押しかけないと、どうせ全部彼は自身で家事も、何もかも済ませてしまう。
ただそうすると休む暇なんてなくて、もっと悪化する可能性があった。勿論、一人暮らしなのだから色々とやらなきゃならないのはわかっている。
ただ雪音にとって、
だから無理矢理でも、彼を甘えさせる状況を作り出さねばならなかった。今回の場合、彼が風邪引いたのは偶然ではあるものの、ここにやってきたのは雪音の意志だ。
ある意味、彼女のワガママでもある。
瑞希を一人にしたくないから。
彼が風邪を引いたのは自分のせいだからと、のたまいやってきた。
──ふと、雪音は立ち上がり、卓上にある写真立てを手に取り、見つめる。そこに写っているのは、彼と彼の両親。写真の中で彼は笑っている。
今思えば、彼はこんなふうに笑っていただろうか?勿論、笑っているところは見たことある。だが、ここまで純粋に、本心から、笑っていただろうか?
雪音が知る限りでは、なかったはずだ。
分かっていた。瑞希の、彼の笑顔にはどこか影があることを。ただこのことがわかるのはほんの一握りの人だろう。多分本人でさえ気づいていない。
少なくとも雪音の知り合いの中で気づいている人がいれば、和真と慎吾、雪音にとって認め難いことだか、あの担任も気づいているだろう。
何かと瑞希のことを気にしているし、今朝、事情を話したら、真剣な表情をしながら、すぐさま早退の手続きをしてくれた。
それに、あの人は、あの担任は、瑞希の何かを知っている。それが何なのか、雪音が知る由もないが、瑞希にとって害ではないだろうと思っている。
何はともあれ雪音のすることは変わらない。
瑞希を支えて、癒し、幸せにすること。
彼女が彼を愛すると決めた時から、行動理由となっている彼女の至上命題。
(ボクは、何がなんでもキミを……)
手に持っている写真立てを元の位置に丁寧に戻し、瑞希が寝ている近くに戻る。
「それじゃあ、ご飯作ってくるね。」
彼の頬に優しく触れて、彼女はそう口にした。その後、雪音は料理を作るために、部屋から出ていった。
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