第13話 手作り
「……」
「……」
カチャカチャと何かを動かしているような音と、テレビから聞こえてくる音、それだけが部屋の中に存在していた。
「……っ‼︎やっと勝てたぁ……」
雪音が歓喜の声を上げる。
「それにしても、瑞希、キミ強すぎない?
そんなにガチってる訳じゃないんでしょ?」
「いや、でもあれだ。俺一人でやることは無いけど、前けっこうな頻度で誘われてやってたからなぁ。だからそのときのがあったんじゃ無いの?」
「それでもね、これでもボクはけっこうこのゲームやってる方だからね?だから実力的にも五分五分かなぁ、なんて思ってたのにこんなに勝てないなんて……」
しょんぼりとした様子で顔を伏せる。
一体彼らが何をしていたかというと、ゲームである。対戦型のゲーム。
某王手ゲーム会社から発売されている、スマッシュでブラザーなゲームをやっていた。
「まぁまぁ、勝てたんだからいいでしょ?」
瑞希が宥める。
「だとしても、これだけの回数戦ってやっとだよ?それに若干手加減されたような気がするし……」
「気のせいだろ。……というかだいぶ時間が経ったな。」
「なんかはぐらかされた気がする……
うわっ、本当にこんなに時間経ってたんだ。」
時間は経つのが早い、時計を見ると短針は六時をさしていた。
「こんな時間だけど、雪音。よかったらうちで夕飯食べていくか?
まぁ、前準備とか何もしてないから簡易的なものしか作れないけど。」
「えっ、いいの?」
「うん、一人増えたぐらいなんの問題でも無いし。あぁでもこれから作るからそれなりに時間かかるけどさ。」
「……うーん、しゃあお言葉に甘えて、お願いしようかな。」
「案外あっさり決めたな。」
「ん?前からキミの手料理食べてみたいと思ってたからねー。」
「ふーん。あっそうそう、今日オムライスの予定なんだけど大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。」
「じゃあひとまずご飯炊きに行ってくるわ。ちょっとまってて。」
そう言って瑞希は部屋を出て、ご飯を炊くにキッチンへ行く。
キッチンへ着いた瑞希は、迅速に米を取り出し、水で洗う。洗い終わったら、炊飯器に入れて、そのあと水を入れ、スイッチを押して、完了である。今回は、出来るだけ早く済ませたいので早炊きにする。
「大体、終わるのが30分後くらいだからできるのは7時過ぎくらいになるのか……こりゃあ結構帰るの遅くなりそうだな。」
セットが終わると一人呟く。
一旦戻るかと思い、自身の部屋へと戻って行く。
──一方、雪音が何をしていたかというと、彼女は色々と瑞希の部屋を見て回っていた。
チラリと見てはいたが余り詳しく見ていなかったのだ。
まず一番最初に目に付くであろう本棚から見てみる。
「異世界ファンタジーに、現代ファンタジー、ラブコメ、恋愛、ミステリー、純文学、SFに、あとは辞書。
本当いっぱいあるなぁ。」
パッと目を通しただけでこんなにもあるのだ本当に詳しく見たらまだいろんな種類の本が出てきそうである。
ちらりと視線を瑞希の机の方に向ける。
近くにある、ラムネの入った段ボールは置いといて、机の上にあるものに目を向ける。
机の上には参考書なんかが縦に並べられている。あとはノートパソコンが置いてある。
「ん?これは……写真?」
机の端の方に一つ、小さな写真立てが置いてあった。
そこに写っているのは、一人の幼い少年と、大人の男女が二人。これは考えなくても予想がつく。
「お父さんとお母さんか。」
多分ここに写っているのは、瑞希とその両親なのだろうなと、そう考える。
写真に写っている彼らは幸せそうな顔をしている。
(それがもう……)
そこまで考えていると階段を登ってくる音が雪音の耳に聞こえてくる。
「‼︎」
写真立てを静かに元にあった場所に戻し、元いた場所で座る。
その次の瞬間扉が開かれ瑞希が戻ってきた。
「戻ったぞ、出来上がるの7時くらいになりそうだわ。」
「う、うん、わかった。」
「……?」
少しばかり挙動不審な雪音の姿に疑問を抱きはしたが特に気にすることもなかった。
──それから30分が経った。
「じゃあそろそろ作りに行ってくる。」
「あっ、瑞希。ボクも見にいっていい?」
「別いいけど見て面白いものでは無いぞ。」
「それでも見てみたいの。」
雪音が作っているところを見たいと言い出したので二人で下に降りる。
瑞希がキッチンに立ち、雪音はその正面にある机の側にある椅子に座った。
まず最初に、鶏肉と玉ねぎを切り、その後フライパンにバターを乗せて熱し、バター頑張って溶けたら、鶏肉と玉ねぎを炒める。
鶏肉と玉ねぎに火が通ったら、塩、胡椒を振って混ぜる。その後ご飯を加え、ぱらりとしたらケチャップを加える。そして混ぜるようにして炒め、全体にケチャップが馴染んだら火を止めてその他の容器へ移す。
移し終わったら、チキンライスに乗せるたまごを作り完成。
「はい完成。ソースはケチャップでいい?」
「うん、それで大丈夫。それにしてもよくこんなにふわっとしたやつ作れるね。」
「まぁ、色々と練習したからな。」
そう答えると瑞希が完成した二つのオムライスを持ち、上へと持ってこうとする。
「瑞希、なんで上に持ってこうとしてるの?」
「えっ……あぁうっかりしてた。いつも上でご飯は食べるからさ。こうやって下で食べることがないんだよね。」
「……そう。」
瑞希がオムライスを持ってきて、机の上に置く。そして雪音にスプーンを渡す。
その後二人でいただきますと言って食べ始めた。
──時刻は20時前、だいぶ暗くなっている時間、二人は最寄りの駅に来ていた。
雪音は自宅に帰るため、瑞希はその見送りのため来ていた。
「それじゃあ今日はありがとね、ご飯美味しかった。」
「俺の方こそ、楽しかった。」
駅の前で互いに別れの挨拶を交わす。
いかにもといった別れ方をしているが結局のところ2日後には会えるのだけど。
まぁそこは置いといて。
ふと雪音が瑞希に問う。
「唐突で悪いんだけどさ、キミは今幸せ?」
唐突に、抽象的な質問をしてきた。
「……幸せだよ、俺は。」
瑞希が答える。
「そっか……それならいいや。
うん、じゃあまたね。」
そう言って手を振りながら踵を返す。
「あぁ、また。」
瑞希もそう零す。
雪音が見えなくなると瑞希も踵を返す。
そしてふと立ち止まり。
「幸せだよ、本当に。俺には勿体無いくらいだ。」
そう一言。そして何かを思い出したかのように、おもむろにスマホを取り出し、電話をかける。
「もしもし、こんなお時間にすいません。
仙波瑞希というものですが……」
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