第14話 親として

 雪音は瑞希と別れた後、電車に乗って自宅の最寄り駅まで行き、改札を出る。

 自宅までは歩いておよそ20分から30分くらいかかる。面倒だなぁと思いながら歩いていると、ふと、電話の着信音が聞こえた。

 スマホを取り出し、相手を確認する。

父親だった。

何故?と、思いはしたものの相手は父親であるし、出ない理由もないので出る。


「もしもし?どうしたの、お父さん?」


「今、雪音はどこにいる?」


「えっと、駅前だけど……それが?」


「うん、それだったら今からこっちに来てくれる?車停めてあるからさ。場所は──」


 電話越しに場所を伝えられる。場所は運がいいのか悪いのか、現在いる所から歩いて数分の近い場所であった。


「分かった。っていうかなんでお父さんがここにいる訳?」


「あぁそれはね……いや、後で、帰りと時に話すから、さっさと来てね。」


 そう言うと通話が切れる。


(あっ、切られた。……本当なんでいるの?

今日お父さんってずっと家にいるんじゃなかったけ?……まぁいいや、取り敢えず向かうかぁ)


 雪音が記憶では父親は今日仕事は休みである、一日中家で母親とゆったり過ごしているはずだ。それなのに何故?まぁどうせ後で聞けることなのでさっさと目的地へと向かう。

 

 歩いて数分、目的の場所にやってきた。

キョロキョロと辺りを見渡していると、声が聞こえてきた。


「雪音、こっちだ。」


 声の主の方向へ身体を向ける。

そこには丁度車から降りたであろう父親の姿があった。その姿を視認するとそっちの方向へと雪音は歩き出す。

そして父親の前まで行くと一言声がかかる。


「ほら、乗って。帰るよ。」


 雪音は車の扉を開けて、助手席へと座る。

彼も、同じように運転席へ座る。

シートベルトを付けたのを確認すると、車を発進させた。

 それから少し立ち、雪音が父親に問う。


「で、なんであそこにいたの?」


「いやぁ、それはね、ある人から電話がかかってきたんだよ。」


「ある人?」


「それは……雪音の想い人さ。ここまで言えば分かるでしょ?」


「⁉︎、でもなんで……」


 分かる、分かるとも。

雪音にとってその人物はこの世でただ一人、仙波瑞希という少年だけなのだから。


 ただその理由だけが雪音にとって分からなかった。わざわざ自分雪音の父親に連絡を取り、迎えに来させたのかその意味が分からなかった。

というかそもそも……


「いつのまに、瑞希とお父さん連絡先交換してたの⁉︎」


「あぁそういえば雪音には言っていなかったっけ、ほら前あの子と会った時に、何かあったら連絡してねって交換しといたんだよ。」


「へぇー。」


 それなら納得。


「それでなんでかって話か、いや僕もびっくりしたんだよ?連絡先交換したとはいえ、今までかかってくることはなかったからさ。」


──ことの始まりはこうである。

今からおよそ数十分前のこと、雪音の父親、桜花悠一おうか ゆういちはゆったりと休みを満喫していた。そんな時、瑞希から電話がかかってきた。

 まさか彼からかかってくるとは思わなくてびっくりしたが、何かあったんだろうと思って電話に出た。


「はい、もしもし、桜花ですが。」


『もしもし、こんな遅くにすいません。

仙波瑞希というものですが……』


「あぁ、瑞希くんか、久しぶりだね。

どうしたんだい?雪音がなんかしてしまったかな?」


「どうもお久しぶりです、悠一さん。

いえそうゆうことではないんです。

雪音、いや、雪音さんに関係することではあるんですけど。少しお願いしたいことがありまして。」


「お願い?あぁ後、いつも通りの口調で大丈夫。別に、雪音にさんを付けなくても大丈夫だよ。」


「いえ、お言葉ですが、このままいかせてもらいますね。それでお願いというのは、雪音さんのことを迎えにいってほしいんですよ。」


「迎えに……かい?」


「はい、これはこちらの勝手な願いなんですけど、もう夜も遅いので。」


「なるほど、雪音が心配というわけか。」


「えぇ、まぁそうですね。」


「それはどうしてだい?」


「どうして……ですか。」


「あぁどうしてだい?何故わざわざ僕に連絡とってまで雪音のことを心配する?」


「……そうですね、俺……私にとって雪音さんは大切な人なんですよ。彼女には傷ついて欲しくない、怖い思いをして欲しくない。ただそれだけのことなんです。」


「そうか……分かった。君の願いは叶えよう。だから、安心するといい。」


「……ありがとうございます。」


「あぁ、それでは迎えに行くとするよ。瑞希くん、君またいつか会いたいものだ。」


「えぇ、機会があれば、その時は。」


「楽しみにしている。それでは。」


 そう一言、そして悠一は通話を切り、出かける迎えに行く準備を始めた。


────


「まぁ、単純に雪音のことが心配、そう言っていたよ、彼は。」


「心配?」


「あぁ、もう暗いしね。

それに雪音には傷ついて欲しくない、怖い思いをして欲しくない、そう言っていたよ。随分と大切にされているな。」


「えへへ……そっかぁ、そっかぁ……瑞希がそんなことをねぇ……」


 恍惚とした表情を浮かべながら雪音はそう言った。

 

「雪音。君は彼と過ごしていて幸せかい?」


「幸せ?そんなの当たり前でしょ。幸せじゃないなんて有り得ない。」


 何を当たり前なことをと言わんばかりに返答する。


「そっかそれならいい。

そのまま行けば彼はそのうち……」


「?……どうしたの?」


「いや、なんでもないよ。」


 そう言いながら悠一は心の中で思う。


(そのうち彼は堕ちるだろうな。今は恋愛感情ないにしても、大切に思ってるみたいだし、なにかきっかけが有れば……、いや案外すぐかもな。彼は、瑞希くんは愛に飢えているだろうしね。)


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