第12話 ラムネ
「なんか……変な空気にさせちゃったな。
うん、もうこの話題はおしまい。
それでいい?」
瑞希が聞いてくる。
だが、雪音はまだ彼に聞きたいことがあるのだ。だから……
「待って、まだキミに聞きたいことがっ、」
「雪音……」
雪音の言葉に被せるように瑞希が首を横に振りながら彼女の名を呼んだ。
優しい声色だった。
怒っているわけでも、咎めているわけでもない。ただ優しく彼女の名を呼んでいた。
でも、彼女は分かってしまった。その言葉の裏にある、拒絶を。もう聞かないでくれと、これ以上、何も聞かないでくれと。
だから雪音はもう何も瑞希に問うことはできなかった。
「……分かった、もうこれ以上何も聞かない。」
「ありがとう、雪音。この先はいずれね。じゃあさっさと俺の部屋に入るか、なんかここまでくるのにすごい時間かかった気がするけど。」
瑞希が扉を開けて、雪音に入ることを促す。
「うわー、凄いねこれ。何冊あるの……」
彼女が瑞希の部屋に入って一番に目に入ったのは、壁一面にある本の数々。多分千冊は超えているであろう沢山の本が壁一面に存在していた。
「どう、凄いだろ。ざっと千冊くらいはあると思うぞ。詳しい数はもうわからないけど。」
どんな種類のものがあるのか詳しく見ていく。
「ラノベに、ミステリーに、なんかの参考書に、歴史書?あとは辞書。」
詳しく見ればもっとわかるのだろうがざっと見た感じでこれだけの種類のものがあった。
「あれだな、小説を書き始めてから色々増えた気がする。参考書だったり、辞書だったりは執筆するときの参考になればと思って買ったら、だいぶ増えちゃった。」
「なるほどねぇ。」
あと他に目立ったものといえば。
少し大きめの机に、パソコン、小さめのテレビに、ゴミ箱、あとは……
「段ボール?」
段ボールがあった。
いくつかの段ボールが床の上に置いてあった。
雪音の呟いた言葉に瑞希が反応する。
「ん、あぁこれか、気になるなら中見せようか?」
「えっ、いいの?てっきりダメなやつかと思ってたんだけど。」
「うん、全然オッケーだけど。
というか、見せれない物だったらなんでここに置いてるのって話だろ。
今日、雪音が来るの分かってたのに。」
確かにそうである。来るのがわかっているのに見せられないものを置いておくなんていう理由はない。
瑞希が段ボールに近寄って、開けて中を見せる。
「ラムネ?」
中に入っていたのはラムネだった。
飲む方ではなく、食べる方、固形状の方のラムネである。
「うん、ラムネ。すぐ食べれるようにここに置いてるんだよね。」
「ねぇもしかして、ここにある段ボール全て、中に入ってるのラムネ?」
「うん?そうだけど。」
何か問題でも?と言わんばかりに瑞希が言う。
「えぇ……流石、いつもラムネを持ち歩いている人は違うね。」
「おぉ、ありがとな。」
「褒めてる訳じゃないんだけど。」
「あれ?そうなの?てっきり褒められたのかと。」
「うん、褒めてない。なんならボクは心配したんだけど。」
わかっているんだろうか、彼は。
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