第11話 それは余りにも……

 服を買いに行ってから丸々1日が経過した。

現在は土曜日、土曜授業などもなく休みである。


 そんな中、瑞希と雪音の二人は、瑞希の自宅の前にいた。きっかけは単純、雪音が瑞希の家が見てみたい、ただそう言ったからで、彼女にとってこれは単に純粋な好奇心でしかなかった。

 雪音は瑞希がある事情で一人暮らしをしているという情報ぐらいしか知らず、どんな家に住んでいるのか、どんな場所に住んでいるのか、アパートなのか、マンションなのか、分からない、だから知りたかった。

しかし、瑞希の自宅だという場所の前まで来て彼女は心底驚いた。だってあり得ないと、そう思っていた場所だったのだから。


「……ねぇ瑞希、キミの家って、一軒家だったの?」


「えっ?いや、見ての通りだろ?なんでそんな驚いたような顔をしてるのか分かんないけど、ほら表札だって『仙波』って書いてあるだろ?」

 

 確かに書いてある。

瑞希の苗字である仙波と書いてある。

けれどあり得ない、そう思う。

彼の事情を顧みるとなおさら、あり得ないとそう思うのだ。

ただもしかしたら自分が勘違いしてるだけかと思い、彼に聞いてみる。


「キミってさ……ずっと、生まれてからずっとこの家に住んでるの?」


 否定してくれればそれでいい、自分が大きく勘違いしていただけなのだから。

ただ肯定されれば自分の予想が現実味を帯びてしまう。

 

「うん、そうだぞ?一度も引っ越したことなんてない。生まれてからずっとここに住んでいる。前にも言わなかったっけ?まぁ取り敢えず立ち話もなんだし家に入るぞ。」


 彼の答えは肯定だった。


 何かを考える暇もなく、瑞希に連れられ雪音は彼の自宅へと入る。ひとまず今考えていることは頭の隅に置いて、瑞希の家を見ることに集合する。本来の目的はそれなのだから。


「お邪魔します。」


 雪音はそう言って家の中に上がった。

まず最初に行ったのは洗面台、そこで手を洗った。途中、リビングやキッチンなどもあったがそこはスルーした。そのあと階段を登り、瑞希の部屋の前へとやってきた。


「……」


「それでここが俺の部屋。」


 瑞希が扉を開けようとしたその時、雪音が彼の腕を掴んだ。


「雪音?」


 彼は困惑していた、当たり前だろう急に腕を掴まれたのだから。


「…………ねぇ瑞希、なんでこの家はこんなにも「生活感がないの?」だろ?」


 雪音と瑞希の声が被る。


「⁉︎」


「凄く驚いた顔をしてるな。まぁ途中から、雪音の様子がおかしかったし、前にも同じようなことを他の人から言われたからな。まぁ予想はついたよ。」


 雪音や瑞希の言った通り、この家は一部を除いて、綺麗すぎた。いや、生活感がなさすぎた。例を挙げるとするならばリビングがわかりやすいだろう。テレビや机、ソファー、棚などといったものはあった。

 けれど棚の中には、写真や本などといった物はなく何も置いていなくて、ほぼ新品のようだった。

 テレビやソファーに関していえば長年使われた跡がなかった。

 これは余りにもおかしい。だって生活していないみたいではないか。


「まぁそのことに関していえば当たり前だろ?使ってないんだから。俺がこの家で使ってる場所と言ったら自分の部屋とキッチン、お風呂と洗面台くらいじゃないか?あとはもうほとんど使ってない。」


「……」


「そんな顔するなよ雪音。可愛い顔が台無しだぞ。」


「……じゃあなんで、なんでこの家で暮らしてるの?

別に一軒家じゃなくてもいいでしょ?こんなに使わない部分があるならアパートだったりに引っ越せばその分安く済むはずでしょ?」


「まぁ確かにその通りだけどさ、俺がそれでもここに住んでるのはワガママなんだよ。

俺に残ってるのはここしかない。

ただそれだけ、それだけなんだよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る