第3話 転校生はお知り合い
雪音を、教室に入ってきた青色の彼女を、その瞳でしっかりと視認する。
瑞希は目を見開き、思わずその場で立ち上がりそうになる。
が、今は彼女が自己紹介をしている最中でありであり、自分のひと時の感情で迷惑をかけるわけにいかない。
驚愕、困惑、疑問、そして少しばかりの喜び、さまざまな思いが瑞希の胸の中で入り混じる。
雪音に聞きたいことがたくさんある。……いや、たった今出来たというべきか。
そんなことを思っていると声をかけられる。
「———き、—―ずき、—瑞希!」
「へっ?和真?」
「大丈夫か?ずっと固まってたぞ。」
「いや、まぁうん、というかホームルームは?」
「もう終わってるぞ、ほんとに大丈夫かよ……」
「まぁちょっとね……」
そう言いながら瑞希はキョロキョロと辺りを見回す。
相変わらず教室の中は騒がしい、そして一際人が集まっているところを発見する。
(うわ……大変そうだなあれは)
瑞希はそう思いながら内心で苦笑する。
「なに?転校生のこと気になってんの?」
瑞希の様子を見ていた和真が質問する。
「いや、ちょっとな……」
言葉を濁して答える。
そして少し考えたあと口を開く。
「うーんまぁ和真なら言ってもいいか。どうせその内知ることになるだろうし。」
「?」
瑞季に手を招かれたので和真は少し瑞季の方に寄る。
「端的に言うとだな、知り合いなんだよ。あいつとは。」
そう小声で瑞季は和真に言う。
「⁉」
とっさに口を塞ぐ。
そして小声で瑞希に問う。
「まじ?お前いつあんなかわいい子と知り合ったんだよ。」
言ってなかったかなと瑞希は思う。あの例の人だということを和真に伝える。
「いやそんなことあるのかよ。」
事情を聞いた和真はそう返した。
確かにそうだなと瑞希は思う。知り合いの転校した学校がたまたま同じだったということはなかなかないだろう。
少なくとも彼女が、自らの意思で選んでいるというなら話は別だか。
なにはともあれ彼女が転校してきたという事実は変わらない。
偶然でも必然でもどちらでも構わないのだ。
そんなこんなでヒソヒソと話しているとある人物が会話に加わる。
「和真くん、さっきから何をヒソヒソと話しているんですか?」
声をかけてきたのは一人の少女。
黒髪黒目、腰の上まで下ろした長い髪、清楚な雰囲気を醸し出し、所謂、大和撫子と形容されるような容姿の持ち主。
彼女の名は柊木陽奈、和真の彼女であり、あまり話す機会は少ないが、瑞希にとっての友人でもある人物。
そんな彼女が瑞希たちの様子を見て声をかけてきた。
「ほんとに何の話をしているんですか?」
「あぁ……転校生の話をしてるんだよ。」
「やっぱり和真くんも気になるんですか?彼女のこと。」
「いや、オレじゃなくて、瑞希のほうだ。」
「仙波くんがですか?……意外ですね。」
そういいながら陽奈の視線が瑞希の方へと向く。
「いやそうか?俺が他人を気に掛けることが意外なのか……」
そんな風に思われていたなんてなんだか少しショック
「はい、意外です。和真くんもそう思いますよね?」
陽奈は和真へと視線を戻し、問う。
そう問われた和真は、困ったような表情を浮かべる。
「あーうん、確かに瑞希が知り合いじゃなく、見ず知らずの赤の他人に対して色々気にかけてるならオレもそう思うけど……」
その問いへの返しは、微量ではあるが躊躇い、あるいは何か他のことを気にしているかのような返しだった。
陽奈もそのことに気が付いたのだろう、それ故に、和真へ問いかける。
和真は視線を瑞希へと移す。
二人の話を聞いていた瑞希がその視線に気づく。
そしてその視線の意味を理解する。
「あー、別に話していいよ。」
視線の意味、それは瑞希と雪音の関係を陽奈に話していいのかということだ。
和真としては、瑞希が雪音との関係を広められたくないのだろうと思っている。
だからこそ彼女である陽奈に対しても秘密にしようとしていた。
もっとも瑞希としては、別に雪音との関係が周囲に晒されたとしてもいいと思っている。和真に対して小声で喋っていたのは単に、雪音のことを考えてだ。
彼女が瑞希との関係を広められたくないと思っている可能性を考慮してのことだ。
そんな彼が許可をだしたのは陽奈のことを信頼しているからだ。親友の彼女だということを抜きにしても、一人の人間として、信じているからだ。
そんなこんなで瑞希は和真に許可をだした。
瑞希から話す許可を貰った和真はそのことを陽奈に話す。
「……なるほど、そうゆうことですか。」
話を聞いた陽奈の反応は意外にも淡泊で、そして納得した表情を浮かべていた。
「事情は分かりました。仙波くんそれでどうするんです?」
「どうするって?」
「知り合いなんでしょう?話しかけたりしないんですか?」
「別に今はいいかな。それに雪音の周りには人が多すぎる。」
ちらりと雪音のいる方向を見る。
そこには男女問わずたくさんの人だかりが出来ていた。それなりに彼女がいる席とは離れているので、どのような内容を話しているのか分からないが、様子を見るに質問攻めさせているであろうことは想像できた。
それ故、そんな中に入ろうとも思わない。それに今夜、雪音と話すのだ。その時に色々と詳しい事情を聞けばいいわけである。
「やっぱり人が多いな。」
和真が雪音の方向を見て口を開く。
「転校生であることに加えて、あの容姿ですからね。皆さんが気になるのもわかりますけどね。」
「まぁ確かにな。」
陽奈、瑞希の順番で口を開く。
仮に知り合いでなかったのなら瑞希も多少は気にしていたと思う。
だからこそああして集まる気持ちもわかるのだが、流石に集まりすぎるのではとも思う。
「まぁ、でもそのうち興味も失せるだろ。それまでの辛抱ってことかねぇ。」
「そんなもんか?」
「そんなものだろう。それにあいつは、けっこう人を選ぶタイプだし。」
「あら、そうなんですか?あまりそんな風には見えないんですけどね。」
今もなお、質問攻めにあっている青髪の少女を見る。
どのような会話をしているのかはこの位置からでは分からないが、見た感じだと丁寧に受け答えしているなと思う。だから、あまり瑞希の言っていることは信じれなかった。
「たぶんああなのも今だけだろ。けっこうバッサリといくぞ雪音は。」
「へぇ、そうなんですか。」
と、そこまで喋った時点で一時限目を知らせるチャイムが鳴る。
チャイムが鳴り終わったあと、教師がさっさと座れと促してくる。
それに伴い、瑞希たちも各々、席へと戻る。
そして全員席へと戻ったのを確認すると、教師が話し始めた。
_____________
時刻は正午を少し過ぎたあたり、瑞希は某コーヒーチェーン店にいた。
学校は始業式であったため午前中に終わっていた。
そして瑞希がここにいる理由は、ある人物を待っているからなのだが。
実のところ瑞希はかれこれ30分くらいこうして待っている。
(いやー、まだ拘束されんのかね。大変だこと。)
待ち人が遅れている理由は、見当がついている。何なら確信すら持っている。
だからこそ、こうして遅れていても文句はない。
瑞希はスマートフォンを片手にコーヒーを飲みながら待っていた。
そしてついにお目当ての人物は現れた。
こちらへ向かってくる足音が瑞希の耳に入る。
それに気づいた瑞希が視線を手元から上へと移す。
真っ先に目に入ったのは特徴的な青髪。そのままその人物を見る。
目の前へやってくる。
そして申し訳なさそうに口を開く。
「ごめん、だいぶ待たせちゃったでしょ?」
「いや大丈夫、遅れる理由は分かってたしな。」
そう瑞希は返す。
「…」
「…」
しばしの沈黙。
先に口を開いたのは相手の方だった。
「あらためまして、これからこっちでもよろしくね、瑞希。」
「……あぁ、こちらこそよろしく、雪音。」
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