第2話 その関係は

 瑞希と雪音、この二人は今でこそ夜遅くまで話す仲であり、互いに友人だとはっきりと言える関係である。だがそれとは別に商業作家と担当絵師という関係でもある。

 瑞希の書いた話を書籍として出すとき、表紙や挿絵のイラスト描くのが雪音である。


 元々は今のような関係ではなかった。ことの始まりは約2年前、瑞希がまだウェブ上で小説を書いていたころの話。まだそのころは書籍化なんて夢のまた夢であったがそれなりに人気の出始めたころ、SNS上で一枚のイラストが送られてきた。

そのイラストは瑞希の書いていた小説のファンアートであり、送り主は雪音であった。送られてきたイラストはとても綺麗で美しく、それこそ商業化しているイラストレーターだとさえ思ったほどである。

 その出来事が初めて互いが互いのことを認知したきっかけであった。

 

 ただそれから何か変わったかということもなく、月に一度のペースでイラストが送られてくる。そして瑞希は感謝の言葉を伝える。ただそれだけの関係であった。

 もちろん瑞希は嬉しかったし、楽しみにしていた。そしてある意味、瑞希が小説を書く原動力にさえなっていた。


 そんなことが半年ほど続いたある日のこと、瑞希に対してあるレーベルから書籍化しないかという打診があった。

その出来事が瑞希と雪音が出会うきっかけであり、二人が作家と絵師という関係になるきっかけでもある。


 結局のところ瑞希はその打診を受けた。

そうして書籍として出すことになる。

その後担当の編集さんと書籍として出すために色々と話をする。その中で担当の絵師さんを決めましょうとなった時に、瑞希はある人物を推薦した。推薦した理由は、毎月のようにイラストが送られてきたということもあるが単に画力が高かった。それこそ、このイラストで本を出したいと心の底から思うほどに。そしてその提案が受け入れられ、担当の絵師が決定した。

 その後キャラクターデザインなどを決める為に二人で話すことがあった。

 

 最初はイラストの話だけしか互いに話さなかった。けれどしばらく続けてる内に少しばかりではあるものも雑談をするようになっていき、まあ紆余曲折あり今のような親しい関係となった。


 これから先、二人の関係性が変わらないかもしれないし、変わるかもしれない。けれどもしばらくの間は変わらないはず……である。





___________



 


 あの夜中の通話から、一週間ほどが経過して、夏休みも終わり、今日から学校生活が始まる。

 

 瑞希は八時過ぎに学校に到着した。そして靴を上履きに履き替え、階段を上り、少しばかり廊下を歩き、ドアを開けて教室に入る。

教室は何故だか騒がしかった。いや、騒がしいのはいつものことであるが、なんだかいつもよりざわついていた。


 瑞希は近くにいたクラスメイトに声をかける。


「なあ、騒がしいけどなんかあったのか?」


「うん?あぁ瑞希か、いやおれも詳しくは知らないけどなんか転校生が来るらしいぞ、おれらのクラスに。」


「転校生?よくそんなことが分かったな。」


「ほら、そこを見てみろよ。」


 彼はそう言いながら教室の後ろのほうを指差す。

指差したところには、夏休み前とは違い、一つずつ机と椅子が増えていた。

それを見て瑞希は合点がいく。


 (あぁなるほど。だからみんな転校生が来るって言ってるのか。)


 その後、瑞希はクラスメイトにお礼を言って自分の席に向かう。

そして授業の準備をしているとある人物から声をかけられる。


「瑞希おはよう。」


「あぁおはよう、和真。」


 そう返しながら、瑞希は声をかけてきた人物へと視線を移す。

声をかけてきた人物の名は、月橋和真という。

 瑞希にとって幼馴染、親友あるいは腐れ縁といった存在であり、瑞希がこの世でもっとも信頼している人の内のひとりであり、

そして、瑞希が作家だと知っている存在でもある。


「それにしても騒がしいなこの教室は、瑞希なんでか知ってる?」


「なんでも転校生が来るらしい。」


「ふーん転校生ねぇ……今の時期にか。」


「まぁ別にいつ来たっていいだろうに。それにしても……ふぁ〜」

 

 瑞希が何か言いかけたところで欠伸が出る。


「なんだ眠いのか?」


「まぁ、昨日寝るの遅かったからね。」


「例のあの人と夜遅くまで電話してたのか?」


 少しばかりニヤニヤとした表情で和真が聞いてくる。

彼は瑞希が夜遅くまで雪音と話していることを知っている。だからこその表情なのだが。


「おい、ニヤニヤするな。それにここ最近あいつとは話してないよ。」


「ふーん、なんだ違うのか。」


「違いますー昨日遅くに寝たのは、執筆してたからですー。」


「はいはいそう不貞腐れるな、オレが悪かったから。というかそんな遅くまでやってるんだな。」


「まぁ俺がやりたくてやってることだし、出来るときにやっとかないとな。」


「ふーん、大変だな作家さんは。別に夜遅くまでやらなくてもいいだろうに、締め切りが近いとかそうゆうわけではないんだろう?」


「うん、そうだよ。別に近いとかいうわけじゃない。でも、仕事だからね。」


「だからそんな遅くまでやると?オレとしては健康的な生活をおくってほしいんだけど?……前みたいになってほしくないからな。」


「別に最近はセーブしてるんだよ?

でも時間があるときにやっておかないとさ、これで万が一締め切りに間に合わないとかなったらそれこそ最悪だ。もう大人だからさ、子供みたいに仕方ないかじゃ済まないんだよ。」


 瑞希のその返答に和真はため息を吐く。

すこしばかりの諦めと呆れが混じったため息。


「……? どうした?」


「……いや何でもない。まぁほどほどに頑張れよ。」


 しばしの沈黙。

その間二人は荷物の整理をする。それが終わると和真が口を開く。


「話が戻るけど、瑞希は転校生、どんな人が来てほしい?」


「はい?どうゆうことだよ。

まぁそうだな。

とりあえず美少女?あと誰かとフラグ立ってるとなおもよし。」


「なんとなく理由はわかるが一応聞くな、どうして?」


「理由?おもしろいからだろ。あと小説のネタにできるし。」


「うん。知ってた。」


「……和真が俺のことをどう思っているのか問いただしたくなったわ。」


 その瑞希の問いに和真は少し考える。

十数秒の沈黙。そして口を開く。


「うーんそうだなぁ、頭のネジが外れた化け物……?」


「おい、どうゆうことだよお前。」


「冗談だよ、冗談。流石に化け物は言いすぎたな。」


 和真が謝罪してくる。

まさか化け物なんて言われると思わなかった。まぁ流石にネタで言っているのはわかるので怒るなどということはないのだか。


 ちょうどその話が終わったときにチャイムの音が鳴る。


「ん、もう時間か。ほら和真、席に戻れ」


「じゃ、またあとでな。」


 それぞれの席に二人は戻っていく。

それから少しして瑞希たちの担任の教師が教室に入ってくる。


「ほらさっさと座れ、ホームルーム始めるぞ。

っと、お前らが期待している通り転校生だぞ、仲良くしろよ。

じゃあ入ってきてくれ。」


 そう呼びかけると教室の扉が開く。

そこから一人の少女が入ってくる。


白みを帯びた青色の髪、灰色の瞳、おおよそ皆が容姿端麗だと言う容姿の持ち主。


瑞希はその少女を視認すると同時に目を見開く。


「えっ……」


 無意識に言葉をこぼす。幸いにしてその声は小さく、そして周りの人は少女に注目がいっているため誰も気には留めないはずだ。


 そんな瑞希のことはいざ知らず。

少女は黒板の前に立ち、少し微笑みながら言葉を発する。





「ボクの名前は桜花雪音です。これからよろしくお願いします。」


 














 

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