第三章 藍沢麗華の解放

【其の十七】

 時刻は〇時を少し回った所。祥吾・葵・司・莉子の四人は、集合しており現在は昇降口ホールにいる。


「いつまで拗ねてんの?子供じゃあるまいし」


「す、拗ねてなんかないって!!」


 葵の言葉にムキになって言い返す司。祥吾を感情任せに殴ったことを思い出し、司はバツが悪そうにしていた。そんな中祥吾は全く気にしておらず、司にも作戦を伝えた。


「その前に……ちょっと良いかな?」


 少しだけ手を上げて、葵は口を開いた。葵がここに来る前に考えていたこと、司にしっかりと言っておかなければいけないこと。それを伝えるために……。


「あの女なんだけど……あれって、司のお姉さんなんでしょ?司は知ってたんだよね?あの女が……司のお姉さんだって!」


「あぁ、風貌は変わっちゃってたけど、間違いなくあれは姉貴だよ」


 力なくそう答える司。その会話を聞いていた祥吾が口を挟んだ。


「昨日女に追い掛けられた時、何故君だけ襲われなかったのか……それは、君のお姉さんだったから。君と遭遇した時の女からはどす黒い霧状のオーラが一瞬和らいだんだ。それで確信したよ」


「そうか……。悪かったな。いきなり殴って」


 司は両目に涙を溜めながら、深々と祥吾に謝罪した。


「キャハハハハハ!!」


 重苦しい雰囲気から和らいだ矢先、甲高い女の声が聞こえてきた。


「姉貴……」


「さぁ、行こうか。この作戦は君たちに掛かっている。君たちが女に捕まって全滅すれば、この作戦は無意味なものになるから、そのつもりで」


 そう祥吾は3人にプレッシャーを掛け、旧校舎方向へと駆け出して行った。


「私たちも行こ!これで最後にしなきゃ」


 司は涙を拭い、首を縦に振る。莉子も「そうだね」と言って笑い声がする方へと歩き出した。


****


「キャハハハハハ!!」


 現在笑い声は二階から聞こえてきている。二階に行く階段を莉子は昇っていくが、明らかに足取りが重い。笑い声はどんどんと近付いて来ている。


——ここで失敗すれば、全てが台無しになる……。それだけは何としても阻止しなくちゃ


 勇気を奮い立たせ、莉子は一歩を踏み出し女の前に姿を現した。


「キャハハハハハ!!」


 莉子の姿を目撃した女は、不気味な笑みを浮かべ走ってくる。思いの他早い女の速さに出遅れるも、莉子は旧校舎へと駆け出した。


 一階に行く階段を莉子は一段飛ばしで降りていたが、最後に着地を失敗しその場に転倒してしまう。起き上がろうとした莉子の右足に激痛が走る。右足の方に視線を移すと、女が血まみれの歯を見せて笑いながら、莉子の右足を引き千切っていた。


——あとちょっとは……頑張りたかったな


 心の中で、莉子はそう呟くながら、意識を失う。


「後は、任せて! 」


 莉子の横を駆け出しながら葵に言うが、その時にはもう莉子の意識は途切れていた。

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