【其の十六】
祥吾は非常勤講師がいる部屋の前に来ていた。扉に手を掛け開けようとした時、不意に背後から声を掛けられ振り返る。そこには無精ひげを生やした細身の男が立っていた。
「須賀泰史先生ですか?」
「あぁ、そうだけど?どうしたのかな?」
須賀の言葉に祥吾は真剣な面持ちで、ある事件について尋ねた。
「南雲高校で十年前に起こった事件……知ってますよね?」
その言葉を聞いた須賀の表情が一変した。険しい顔をしており、額には汗が浮き上がっている。
「ど、どうしてそのことを?」
うまく動かない口を懸命に動かし、須賀はなんとかそれだけ言った。
「十年前にこの学校で女子生徒が行方不明になった。行方不明になる前に、その女子生徒はストーカー被害に遭っていたという情報があった。そのストーカーっていうのが須賀先生……ですよね?」
「確かに……当時私は疑われていた。だが、証拠がなく捕まることはなかった。君にはあるのかい?僕がその犯人であるという証拠が」
ニヤリと笑う須賀に、旧校舎の呪いについて話し始めた。
「旧校舎の呪いの噂は知ってますよね?旧校舎の理科準備室に入ると呪われてしまう……。その噂を流したのが須賀先生ですよね。用務員のおじさんから全て聞きました。あなたが最初に噂を流した人物だと」
須賀は先程の余裕がある表情から追い詰められた表情をしている。その表情を無視して、更に祥吾が須賀を追い詰める。
「何故あなたがそんな噂を流したのか……それは、旧校舎の理科準備室に遺体を隠したから。発見されないためにも、旧校舎に出入りする人を無くす必要があった。だから、噂を流したんだ。でも、須賀先生が流した噂が本当になってしまった。それこそ、あなたが殺した女生徒の呪いだ!」
最後まで聞いた須賀は、膝から崩れ落ちた。泣きながら自身が犯した罪を告白した。だが、それは須賀の身勝手な犯行動機だった。
須賀は十年前にある女生徒に好意を抱いていた。意を決して自身の気持ちを彼女に伝えるも、断られてしまう。それを逆恨みしてストーカーまがいのことをして、挙句の果てには彼女を理科準備室で滅多打ちにして殺害。遺体の処理に困った須賀は、床を剥がしそこに彼女の遺体を隠し、旧校舎に誰も近付けないように呪いの噂を流したとのこと。
全てを話し終えた須賀は、うずくまり動かないでいる。祥吾はこの件を狩谷に連絡し、到着するまでの間須賀と待っていた。
「私は悪くない……私は悪くない」
うずくまりながら須賀は、ずっとブツブツと言っている。
「知ってますか?あなたが殺した女生徒、今も苦しんでるんですよ。恐怖と悲しみの入り混じった感情が今も理科準備室に残っています。ずっと繰り返されているんですよ……あなたに殺された光景が今も尚、彼女の中でね」
祥吾がそこまで言うと、パトカーが到着したようで祥吾は須賀を連れて昇降口ホールへと向かった。
「お前、良く解決できたな。当時は何一つ証拠が無かったのに」
須賀を引き渡され、狩谷は祥吾に聞いた。
「狩谷さんより有能なんでね」
ニコッと笑って立ち去る祥吾の後ろからは「なんだとー!!俺のどこが無能だって言うんだー!!」という叫び声が聞こえていたが、祥吾は全く反応を示さず校舎の中へと入っていった。
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