【其の十五】
祥吾の席まで行くと、司は胸ぐらを掴み祥吾を強制的に立ち上がらせた。その光景を黙って見ることしか出来ないクラスメートたち。耕平に至っては、目が点になっており口をポカンと開けた間抜けな顔をしていた。
「どういうつもりだ!!なんであんなことした!!」
周りの状態などお構いなしの司は、祥吾に怒鳴り散らした。
「どういうつもりって……確認したいことがあったからしただけだよ」
悪びれた様子を一切見せない祥吾に、司の怒りは頂点に達していた。葵と莉子が教室に入った瞬間、祥吾の顔が右にはじけ飛びその場に尻もちをついた。
教室内には悲鳴が響き渡っていた。
「ちょっと、やめなよ!」
祥吾と司の間に割って入る葵は、司を睨んだ。
「なんでこいつを庇うんだよ!!こいつは俺を囮にしたんだぞ!」
祥吾の方を指差し、更に怒鳴った。口角から出た血を拭い、祥吾は立ち上がった。
「あんたこそ、何か知ってるんじゃないのか?たとえば、あの女が誰なのか……とかさ」
祥吾の言葉に目を見開き驚いた表情をした司は、「知るか!」と捨て台詞を吐いて教室を出て行った。先程の騒動で教室は静まり返る。
「とりあえず、ちょっとこっちへ来て」
葵に手を引かれ、教室を出て行く祥吾。何故かその後を追い掛けようとする耕平を制止して、「あんたはここで待っていればいいから」とだけ言って莉子は出て行った。
****
「ねぇ、いい加減教えて?あの女と司はどういう関係なの?」
教室から出た葵はずっと気になっていたことを、祥吾に尋ねた。祥吾は暫く考え込んでいたが、ため息を吐き出して語り出した。
「……あの女は、先輩のお姉さんだ」
その言葉を聞いた葵と莉子は驚いた。まさかいつも夜中に追い掛けてくる女が、司の姉だとは思わなかったのだろう。祥吾の話に驚いた葵だったが、思い当たる節があるのかある言葉を口にしていた。
「行方不明……」
葵の言葉に莉子は首を傾げている。莉子の反応を見た葵は、言葉を続ける。
「司のお姉さんなんだけど、十年前に行方不明になってるの。まだ司が八歳の時だった……警察にも捜索願いを出してたんだけど、結局見つからなかったみたい」
「そっか、葵……司と幼馴染みだもんね」
葵は「うん」と頷くだけで、その後は何も喋ろうとはしなった。
「彼女は生前ストーカー被害に遭っていたらしい。俺の推論が正しければ、その犯人に殺され遺体はある場所に隠されている」
「殺されたって……なんで?」
「その身体何処にあるの?」
葵と莉子は別々の質問をしていた。祥吾は大きくため息を吐き出し、二人の質問に答えていく。
「殺された理由なんて僕には分からない。ただ、その犯人はよっぽど自分勝手なんだろうな。次に身体の隠し場所だけど、それは旧校舎だ。だけど……」
「だけど?」
祥吾の顔を覗き込み、その先の言葉を促す莉子。少し後退りした祥吾は、言葉を続けた。
「旧校舎には、負の感情が色濃く渦巻いている。生身の人間がそこに行けば、心が崩壊して廃人になるかもしれない」
その言葉に顔を引きつらせる葵と莉子。その表情を無視して、祥吾が更に口を開いた。
「だから、僕が旧校舎に行く。君たちはあの女を旧校舎に誘導してきてくれ。あの女が来なければ、いくら身体を探し当ててもこの件は解決しない。だから頼むよ」
そう言った祥吾は教室には入らず、別の場所へと向かおうとしていた。
「どこに行くの?」
気になった葵は、祥吾の後姿に声を掛けた。
「犯人の所」
それだけ言うと、祥吾は歩いていってしまった。
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