【其の十】

 ――前に来た時よりも呪いの色が濃くなっている


 祥吾たちは理科準備室の前に来ていた。祥吾の目からは、理科準備室全体に黒い霧状のオーラのようなものが視えている。


 前回来た時よりもオーラの色が濃くなっているようで、危険な状態なのだと祥吾は悟る。


「なぁ、ここ入るのか?」


「前にも言ったろ?ここに入れば確実に呪われる。死にたければ話は別だけど」


「遠慮しておきます」


 冷や汗を流しながら耕平は理科準備室の扉から離れた。


 二人は理科準備室を後にすると、途端に祥吾のスマホが鳴りだした。その着信音にビクッとする耕平。さっきの祥吾の言葉がこたえているようだ。


 そんな耕平の態度を気にすることなく、祥吾はスマホの通話ボタンを押して電話に出た。


『祥吾か?調べたぞ、例の件』


 祥吾と通話している相手は捜査一課の刑事で、狩谷という。以前とある心霊事件に祥吾が遭遇し解決したため、狩谷は祥吾に頭が上がらない。


「で、何か分かりました?」


『あぁ、十年前に行方不明になった女子高生の名前は”藍沢麗華”。行方が分からなくなる一週間前からストーカー被害に遭っていたそうだ。同じクラスの生徒の話だと”須賀泰史”という教師が怪しいという情報が入ったんだが、結局証拠不十分で逮捕には至らなかった。……で、なんでこんなこと聞くんだ?』


「ありがとうございます」


 祥吾はそれだけ言うと、通話を終了した。通話を切る瞬間、『おい!まだ俺が喋ってるだろ!!』という声が聞こえた耕平が「お前ってそういうところあるよな」と呟いた。


 なにが?という表情の祥吾に、耕平は大きなため息を吐くのだった。


****


「そういえばさ、今思い出したんだけど姉貴から連絡があってさ」


「連絡?どうせ、あの件だろ」


 欠伸をしながら祥吾は耕平の言葉に返答した。


「たぶん……なぁ、姉貴たちに連絡するから会ってくんね?」


「別に良いよ」


 短く答えた祥吾の言葉に耕平は自分の耳を疑った。


「あのひねくれている祥吾が、文句も言わずに引き受けるなんて……何かの前触れか?」


「お前は俺のこと何だと思っているわけ?」


 驚愕していた耕平に、睨みをきかせる祥吾。思ったことが口から出ていたことに気付き、耕平は咄嗟に口を手で押さえ苦笑いを浮かべる。


 そんなやり取りをしていた二人は教師に見つかり、祥吾がサボっていたことがバレこっぴどく叱られ、耕平は横目で祥吾の顔を盗み見ると、自分には関係ないといった太々ふてぶてしい顔をしており、耕平は呆気に取られている。


 全く関係のない耕平も一緒に叱られること三十分。ようやく解放された耕平のスマホに着信が入る。待ち受けを見ると、莉子からだった。


「もしもし?」


 何回かのコールの後、耕平は電話に出ると何度か頷いた後に通話を切った。


「今から姉貴たちと合流しよう!例の件の話を聞いて解決しようぜ!!」


 威勢よく本校舎を飛び出した耕平の後姿を眺めながら、祥吾は頭を掻きながらため息を吐き出した。


 


 


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