【其の七】

 重い身体をベットから動かし玄関へと向かう。葵の両親は今、親戚の結婚式でハワイに行っているため家にいるのは葵一人だけである。


 なので葵の状態を両親は知らない。当然葵自身も何て両親に説明すれば良いのか分からず、連絡をしていなかった。


 葵が玄関の扉を開けると、そこには部屋着姿の司が立っていた。額には汗が浮かび上がっており、走って葵の家まで来たのだと安易に想像できる。


「司······どうしたの?こんな早く」


「どうしたって!?それはお前が心配だから」


 そう言って司がしどろもどろになっている光景を見た葵は、クスッと笑みが溢れていた。


 ――全く、寝癖も直さないで来るなんて


 葵と司は小さい頃からの幼馴染みで、親も仲が良かった。今でこそ一緒に遊ぶことは少なくなっていたが、小さい頃はいつも一緒にいる程仲が良かった。


「入って」


「おう!」


 葵は司を家に上げた。親がいないため、リビングに通し冷たいお茶を司の前に置く。


 喉が乾いていたのか、司は出された冷たいお茶を一気に飲んだ。


「大丈夫か?」


 お茶を飲み干し空になったグラスを机に置くと、司は申し訳ないといった表情で葵の方を見て口を開いた。


「大丈夫······ではないかな。正直、ちょっとしんどいかも」


 司の言葉に葵は視線を足元に向けそう言った。


「悪い······俺のせいで、あんな所行かなきゃ良かったんだ。そうすればこんなことにはならなかった」


 司は責任を感じているのか、謝罪の言葉を口にした後肩を落とした。


 ――司の言う通り、あそこに行かなければこんな思いはしなくてすんだ······


 そう思った葵は口を開き思ったことを司に言おうとしたが、喉元まで出てきた言葉を引っ込めた。


 ――司を責めた所で状況は何も変わらない。そんなことよりも……


「梨子は大丈夫かな?ねぇ、電話しても良い?」


 梨子も呼んで三人で考えれば、なにか状況を打破出来る切っ掛けになるだろうと司に提案した。


「あぁ、俺も心配だから······」


 司の言葉を聞いた葵は、携帯を取り出し梨子に電話をした。


****


 葵が梨子に電話した三十分後に梨子が到着した。三人でリビングのソファーに腰を掛け、今までの出来事を整理していく。


「まず、いつも同じ時間の〇時に声が聞こえる。気が遠くなって気が付くと校舎で寝ているんだよね?」


 葵の言葉に同意するように莉子が言葉を続けた。


「で、血塗れの女に追い掛けられて腕を引き千切られた……」


 そこまで言うと、思い出したのか葵と莉子は一緒になって身震いする。そこで葵があることを思い出し、二人に問い掛けてみた。


「二階から三階に行く階段の踊り場の鏡に血文字が書いてあったんだけど……」


 葵の言葉に二人は首を傾げている。


「そんなのあった?私見てないかも。逃げるのに必死だったし」


「俺も見てない」


 二人共葵が見た血文字を見てはいなかった。


「その血文字ってなんて書いてあったんだ?」


 気になった司が、葵に血文字のことを聞いた。


「たしか……って書いてあったと思うけど、どういう意味なんだろう?」


 葵は腕組みをして思い出しながら言うと、どんな意味があるのかを考えるが分からなかったみたいで、二人に視線を向けたが二人からの言葉は返ってこなかった。

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